「かくも長き不在」感想
かくも長き不在、大大大傑作!16年前に夫をゲシュタポに連行されたテレーズはある日、彼にそっくりな浮浪者を見かけ…。いつまでも癒えない心の傷、どうにかして夫に生きていて欲しいと願うあまりの狂気…。どこまでも主観的な映画だと思っていたらあのラスト。静かにレコードを聴く場面がお気に入り。
二人がダンスを踊る場面の演出も好き。交互に顔を映し、テレーズと男の心がここでもまだすれ違っていることを示す。そして鏡に映る後頭部の傷。もしかしたら夫を取り戻せるかもしれないと甘い時間に浸っていた彼女の顔が凍りつく。この傷はどちらにも解釈できる(彼がアルベールなのかどうか)と思う。
テレーズは彼が居なくなってしまった後も、夫の帰りを待ち続ける。戦争が、ナチスが人々に残した傷はあまりに大きかった。男のいちばん古い記憶は「野原に独り取り残された」時のこと。町の人々に「アルベール!」と声をかけられれば思わず両手を挙げて固まってしまう。こんな哀しいことあるだろうか。
バカンスで人がまばらの町というのがまた寂しいのよね。はじめは賑やかだった。それがだんだん人が減っていって(テレーズはウェイターの子も追い出してしまう)最後は二人きりになる。レコードに耳を傾け、身を寄せ合ってダンスする。その瞬間は少し希望もあった。
けど、噂を聞きつけた町の人たちが店の前に集まる。二人きりの世界は破壊され、最後は破局が訪れる。この一連の流れがゾッとする。一つひとつのカットを追って眺めてもいいぐらい好き。1960年になっても戦争は終わっていなかった。そして今でも終わっていない。改めてそう気付かされる作品。