映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「不気味なものの肌に触れる」感想

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不気味なものの肌に触れる、みた。〈触れてはならない〉という禁忌。チヒロはナオヤに触れたがっているのだろうか。相手の口を塞いで自分の手の甲を噛みちぎるあの儀式のような振る舞いは?川底に沈殿するものとは?謎をちりばめたまま突然事切れる物語。この不穏でエロティックな空気がたまらない。

本作は構想段階の長編「FLOODS」の予告編的位置付けだという。正直、何が何だかよくわからない映画ではある。しかしその謎めいた断片を拾っては眺め、こねくり回して捨て、また拾って…という作業自体が楽しかったりもする。チヒロの手に残る傷跡は聖痕であるという解釈を読んだ。なるほどと思った。

で、それにかなり納得感があったので、ちょっと語彙やら考え方に引っ張られている部分はある笑 本作は前日譚ということだが、本編見てしまったら逆につまらない気もするし、もっと凄いものが待っているかもと夢が膨らんだりもする。答え合わせをしたら、この独特の余白が損なわれてしまわないか。

〈不気味なものの肌に触れる〉って、どういうことなのだろう?と。最初は人間どうしの距離感の話だったり、死のメタファーなのではないかと考えながら見ていたけど、どうやらそうでもないらしい。そのまま〈不気味なものの肌に触れる〉ことそのものを描いているのではないかと思い始めた。

チヒロが主人公っぽいけど、彼の思考回路はまったく明かされない。作品の中の空洞になっている。一方、ナオヤ目線で〈不気味なものの肌に触れる〉を解釈すると、わりとすんなり行く気もする。恋人に「距離を置きたい」と告げられ、ストーカーまがいのことをする。チヒロと〈触れない〉ダンスを踊る。

最後、ナオヤはチヒロの肌に触れ「わかった」と呟き、警察に恋人殺しを自白する。ナオヤはチヒロから何を感じ取ったのか。〈不気味なものの肌に触れ〉た途端、洪水が川底ごと何もかもひっくり返して陸地を押し流すように(本作のドラマは全て河川敷で起こる)、ナオヤに何かなだれ込んだのではないか。