映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「泣きたい私は猫をかぶる」感想

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泣きたい私は猫をかぶる、みた。猫の姿なら、つれない態度の彼とだって一緒に月を眺められる…。猫はいつも気ままで羨ましい、俺もああやってのんびり暮らせたらなって思ったこと、誰もが一度はあるだろう。世界を愛せなかったムゲが「もっとやれるはず」とひたむきに走る!爽やかな夏の夜にぴったり。

猫の仮面をかぶって「もうひとり」の姿になるムゲ。気ままに街を散歩し、学校では相手にしてくれない日之出くんのところへ向かう。わかるなあ、彼女の気持ち。都合のいい時だけ猫になって、気楽にやりたいじゃないですか笑 それは日が沈んでからの顔。昼は人間として生き、彼にアタックを繰り返す。

じりじりと肌を刺す真夏の日差しと青空と、じっとりと汗が張り付いて蒸し暑い夜の暗闇と月明かり。この対比が結構好きで。ムゲにとって女の子として日之出くんに接する昼の世界は、かならずしも思い通りになるものではない。人間なのに、まるで猫のように無視をされるし、ことばは一方的だ。

一方、日が沈んで「太郎」として日之出くんのところへ向かう。こんどは彼はしっかり名前を呼んで目を見てくれる。ひとりの〈人間〉として寄り添える。伝えたいことばや想いも、彼の胸に届いている気がする。なんて切ないんだろう。愛したいより愛されたい。素直じゃないムゲの気持ちは見た目に表れる。

中盤以降、物語はよりファンタジー色の強い方向に進んでいく。正直、ここで提示される世界観はちょっと強度が足りない。脆い。高校の渡り廊下に、鳥居で別れる二股の道、神社まで延々と続く階段…と、常滑の街並みの方がよっぽど非現実的で物語がたっぷり詰まっているように見えた。この映画の中で常滑と猫の世界、どちらに行きたいかと言われたら迷わすで常滑を選ぶ。後者にはワクワクを感じないのである。ちょっと残念。

しかし、ムゲと日之出くんの交感、それぞれの素直な気持ち、そしてふたりが選ぶ道に、心動かされてしまった。「泣きたい私は猫をかぶる」とはなかなかいいタイトルだなあと思う。エンディングで流れるヨルシカ・suisの歌声も、この一見壮大でいて実はミニマルな物語のスケールに心地よくハマっている。

やっぱり映画館で見たかった。クーラーの効いた部屋に閉じこもって見るのではなく、シアターを出て一回蒸し暑い外気に包まれたい。できればレイトショーで。そうじゃないとシームレスに繋がらないのだ、いろいろと。食い足りなさもあるけど、好きにならずにいられない爽やかな作品!気に入った!