映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「春を告げる町」感想

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春を告げる町、みた。傑作!全町避難が解除された双葉郡広野町に帰ってきた人びとを追うドキュメンタリー。映画は「彼らが震災以前なにをしていたか」に重きを置かない。爪痕を殊更に強調することもない。そこにあるのは広野町の日常であり、折々の行事である。すべてはその現実を知ることから始まる。

震災後に生まれた子と戻ってきた夫婦、復興テーマの劇に挑む高校生、過去の繁栄を知る老人たち…。あんまり彼らの背景情報がないんですよね。震災の経験は語らないし、あの日を境になにを失ったとか、戻ってきて生活がどう変わったとかいう話は深掘りされない。ひたすらカメラの前で時間が過ぎていく。

観客が彼らの経験を〈物語化〉することを拒絶しているのではないか、と思う。安易に触れてしまうと、それは消費につながってしまう。そこはドキュメンタリーの難しいバランスだが、映画は双葉郡広野町に帰ってきた人びとの1年間のみをフレームに入れることでその課題を回避している。

映画は生命の誕生と仮設住宅の閉鎖から始まる。これは間違いなく〈はじまり〉の話である。大げさかもしれないが「ダンケルク」を思い出した。彼らがなにをしてきたかではなく、これからなにをするのか。それを見て観客の僕たちがなにを受け取るのか。作中演劇の「人生ゲーム」主人公と同じ境遇である。

かつてこの町で見つかったヒロノリュウ=恐竜は隕石の落下で絶滅した。震災後の3月11日に生まれた「あん」ちゃん、村落の老人が飼う子犬、田んぼに放たれたあひる(最後は食べられる笑)。田植えに始まり、最後は収穫で終わる。生命の円環。若者のいない町のこれからは?祭りは再開されるのだろうか。

復興をテーマにした演劇に挑むのは県立ふたば未来学園中学校の生徒たち。震災後に生まれた学校である。彼らは「復興とは?」を考え、もがき続ける。小柄な主演の女の子、答えが見つからず時に悔し涙を流す演出担当、戸惑いながらも全力でぶつかるメンバー。顧問の先生の距離感もいい。最後泣くし笑

彼らの葛藤は、3月11日生まれの女の子のエピソードとオーバーラップしていく。そう、これは「これからどう震災を語り継ぐか」なのである。9年前の出来事たま。もはやあの日を知らない子どもたちもたくさんいる。そんな彼らが紡ぐ未来、これからの復興も考えなければならないのだろう。

地味に原発作業員がお酒飲んでるところが好きで。だいたいみんな県外出身者。奥さんに「愛してるよ!」だって。唯一映画の中で〈外の人たち〉なのだが、ほほえましくて印象に残っている。あと、キャンプファイアみたいに一晩中小屋を燃やして餅を焼く行事。パチパチと炭の弾ける音が気持ちいい。