映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「許された子どもたち」感想

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許された子どもたち、傑作!いじめの末に同級生を殺してしまった少年は、母の説得に屈して容疑を否認するが…。これはもう〈見る地獄〉です。被害者遺族の会見も、ネットリンチも、加害者の一見不可解な逃避も、すべて見覚えがある。少年犯罪は〈未熟さ〉で片付けていいものではなく社会の問題なのだ。

いまの世の中、一回ミスを犯したら地の底まで一直線に転がり落ちるしかないのですよ。そんでみんな死体蹴りをしたがる。悪さをした人間が幸せを感じるなんて、真面目にやってる自分が損をした気になるから。そして、だれもが他人を捌ける位置に自分がいると思い込んでいる。これこそが地獄なのである。

〈許された〉とは秀逸なタイトルだ。じっさいは許されたのではなく野放しにされたのだが。ルールのない私刑の空間に放り込まれたら、防戦一方なのだ。それを周囲の大人たちは防げなかった。保身と現実逃避に走って事態を悪化させた。裁判までの母親の言動は一から十まで胸糞ものである。

人を裁くってどういうことか。正直、犯罪はやったしまったら取り返したがつかない。どう贖おうとしたって元に戻るはずがない。加害者が反省したって被害者の傷が回復するわけでもない。裁いて、痛めつけて、その先に何があるのか。終わりなき殴り合いであることはこの映画の後半が証明している。

カラオケボックスアジールとして象徴的に描かれているのは興味深い。はじめから関係性にヒビの入っていた加害者一家にとり、心安らぐ空間とは家でも、隠れ蓑のシティホテルでもなく、寂れたカラオケの一室なのだ。癒しとまでは行かずとも発散にはなる。息子と母二人きりのときだけ時の流れは穏やか。

基本的に〈最悪〉としか言いようのない、不快な出来事の連続なのだが、不思議とテンポがよく、流れに疾走感があるため、見ていて〈楽しい〉のである。もっと先を見せてくれと。だからこそ終盤、息子と母の行動がオーバーラップするシークエンスは、話の流れが停滞して(しかも無駄に長い)退屈だった。