映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「マルモイ ことばあつめ」感想

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マルモイ ことばあつめ、みた。傑作!日本統治下の韓国で母国語を遺そうと辞典作りに奔走した人びとを描く。ことばが奪われていく屈辱と怒り。命を賭して戦う彼らの気高き誇りに感動すると共に、日本の占領政策のグロテスクさに改めて驚く。なかなかこの映画を素直に「面白い」と言えないのが複雑だ。

この映画が面白いのは、主人公を朝鮮語学会のリュ代表ではなく、スリで生計を立てるゴロツキのパンスに設定しているところ。「ハングルの〈トシラク〉が日本語の〈ベントウ〉に置き換わっても、腹が満たされるならどっちでも構わない」と鼻で笑っていた彼が、ハングルへの誇りと愛に目覚める展開が熱い。

圧倒的不利な状況でも諦めずに戦い続ける。「ローグ・ワン」を思い出すテイスト。〈カバンを持って走る〉アクションのリフレインが素晴らしい。ことばはその民族のすべてを知っている。一つひとつの単語に意味があるし、地名にはその土地の歴史が、名前にはその人や家族の人生がある。

だから創氏改名政策は本当に酷いなと。文化や価値観の押し付けにとどまらない。精神の束縛であり支配だ。しかも統治者たちはそれが効果的であることを熟知している、というのがさらに恐ろしい。日本語しか喋れなかったり、ハングルに拒絶反応示したりする子供たちの姿に胸が苦しくなった。

日本人の自分ですらそう感じるのだから、まして当時の大人たちや朝鮮語学会の学者の悔しさや苦痛はいかばかりか。親日派にならざるを得なかった者たちの姿も描かれるが、これまた虚しいものがある。そういう意味でリ代表は〈日本の帝国主義〉と〈親日派の父〉の二重の父殺しの宿命を負っている。

ユ・へジンの〈渥美清〉感がすごい。愛嬌ある飲んだくれのヤクザなオヤジ演らせたら彼の右に出る者はいないかもしれない。一方のユン・ゲサン。重圧や焦りゆえか少々取っつきにくいリュ代表を演じる。二人のあいだを流れる空気の変化を繊細に表現していた。韓国映画は凸凹コンビ描くの本当にうまい。