映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」感想

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ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー、大傑作!あの頃の瑞々しい感情、ワクワクが蘇るような映画だった。アダム・マッケイ&ウィル・フェレルのいつものドタバタコメディではあるのだが、オリヴィア・ワイルドと主演二人の品の良さでうまい具合に希釈されて全く新しい青春映画に。

一夜モノというと「卒業白書」「フェリスはある朝突然に」などがあるし、シチュエーション的にはリチャード・リンクレイターの「バッド・チューニング」や「エブリバディ・ウォンツ・サム!!」に近いものがあるが、ベースは「スーパーバッド」の最新版といった趣き。

他人をクサすのではなく仲良し同士で肯定感を高め合うあたりが今風だと思った。互いを褒めるのはいいとして、それって時に「私たちは特別。まわりの連中は無理解だ」という視野狭窄に陥らないか?と常々疑問に思っていたのだが、この映画はきちんとこの問いに対してもアンサーを示している。

ふたりだけの特別な世界を、勇気振り絞りふたり手を握って一歩踏み出すところに、彼女たちの成長がある。他人を知って初めて、本当の意味で自分と向き合える。描いてることはベタといえばベタ。しかし、これまでの青春映画だったら「キモい」「変人」で片付けられていたキャラが輝いているのが新しい。

スクールカーストの分断がない。「スパイダーマン:ホームカミング」もそうだったが、マッチョで嫌味なジョックスや、トイレでオタクをいじめる(頭の悪い)チアリーダーは登場しない。根底にあるのは多様性の肯定であり、パーティーへの殴り込みは「自由な世界を知ること」として描かれる。

あのパッと景色が開けるような、これまで見過ごしていた教室の〈背景〉にもうひとりの自分を見つけるような感覚、あの感動を瑞々しく描いている。ガリ勉がパーティーに乗り込むのは、ドキドキはしても怖いことではない、むしろワクワクする〈冒険〉なんだとしている。その高揚感を観客も共有するのだ。

何でもかんでも現実の問題を持ち込むべきとは思わないが、一方で良くも悪くも80年代の能天気さを引きずった映画だとは思った。輝かしい未来を約束されたエリートたちの青春。ウラを返せば、そういう突き抜け感をかつてのような中流家庭の設定で違和感なく描けるのか、とは思ってしまうが。

というのも日本の青春映画に置き換えたとき、ここまでポップに「将来の夢」を描けるのだろうかと。バリバリ骨に響くビート音刻ませたヒップホップが流れる青春映画はそもそも日本では作り得ないのかもしれないが。「わたし大学行って最高裁判事になる!」って、富田望生に合わせて成立するのかな。