映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「山椒大夫」感想

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山椒大夫、みた。没落した役人の子・厨子王と安寿は奴婢の身に堕ち…。オールタイムベストの一本になるかも。仏法説話的な世界観をベースに描かれる世の普遍的な不条理。玉木が連れ去られる海辺、水平線の先に死後の世界が見える。残酷な運命と呪いに翻弄されながら必死にもがく姿に心を抉られる…。

映像の作り込みがハンパない。貴族の館の威圧感、荘園の泥っぽさ汗臭さ。安寿のこの世のものならざる存在感に、厨子王の野生っぽさを残した洗練。隅から隅まで見どころがある。有名なラストシークエンスの「かつて津波に飲まれた村」の空虚な空気。これはもっとはやく見たかったし、劇場案件だった…。

厨子王と安寿が奴隷に売られてからのどうにもならなさ、絶望感が凄まじい。人が人として扱われない。出家した太郎のこぼした「自分の幸せに関わらない限り誰も関心を持たない」という言葉は、真実だと思った。残念ながら2020年の実感でもある。社会のずっと上で物事が決まってしまう。

このやるせなさを「山椒大夫」は描いていると思う。父の教えは彼らにとって呪いでもあるのではないか。没落して二度と戻れない家族。どうして自分がこんな目に…と。しかし、そんな上流の暮らしすら知らない、一生地べた這いつくばって泥水すする人間たちがいる。その実感をこの映画はすくってくれた。

そして厨子王は諦めない。もしかしたら…という希望を捨てない。彼らがどれだけ残酷な目に遭い、絶望しても、最後まで運命に抗おうともがく姿に強く胸を打たれてしまうのである。そこに人間の強さがある。感想おしまい。