映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「へんしんっ!」感想

f:id:StarSpangledMan:20201024131135j:image

へんしんっ!みた。PFF2020グランプリ。自らも電動車いすを使う石田監督が障がい者の表現の可能性を探るドキュメンタリー。健常者と障がい者の壁、そして障がい者うしの壁。振付師の砂連尾理に導かれながら、表現を通じ自らの身体性を受け入れていく。ラストの舞踊の多幸感!これこそユートピアだ。

徹頭徹尾、これは対話の映画であると思う。石田監督は「頑張ってるね」と言われても実は嬉しくないと語る。障がい者というカテゴリーから自分を規定されてしまうもどかしさ、苦悩。それは障がい者に限った話ではないが、しかし、その壁を越えるには生身の対話しかないのだと思う。

半身不随の障がい者と、視覚障がい者と、聴覚障がい者。それぞれに見えている世界が違う。当事者の口から漏れる「障がい者どうしでも壁がある」との言葉は、その字面以上に深刻な響きを帯びているだろう。女性どうしですら時に「生理」に関する認識のすれ違い、無理解があると聞いたことを思い出す。

だからこそ腹を割っての対話なのだ。視覚=文字、聴覚=音声といった共通言語が封じられた結果、最終的にこの映画で行き着く「対話」の手段は、身ひとつで表現されるダンスであり、身体的接触である。健常者も障がい者も入り乱れ、お互いの体温を確かめながら舞うラストのダンスは素晴らしかった。

みんな本当に無邪気に、楽しそうに笑っている。そこにはしがらみなんて何もなくて、校庭で走り回る小学生みたいに純なものに見えた。しかし、石田監督はあの対話の輪に入っていたのだろうか。そして観客は、画面の向こう側で展開される対話を理解できていたのだろうか。ただの傍観者ではなかったか。

しかし「新しい生活様式」とやらが叫ばれるようになってから、身体的接触のハードルは上がっているように思う。2020年にあの集団でのダンスパフォーマンスを撮影するのはほぼ不可能だったはずだ。劇的な社会状況の変化を経て、映画で描かれている対話はすでに遠い過去の出来事のように思えた。