映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「MOTHERS」感想

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MOTHERS、みた。生みの母、育ての母、いまの母。心身共に不安定な元ヤクザの父のもとで暮らす監督が、姉と共に三人の母と向き合い、家族の呪縛を清算するドキュメンタリー。超絶大傑作!短気で攻撃的ながら優しさも見せる父が憎めない。ファミリーヒストリーの枠を超えた壮絶な物語。惚れた。

ことしは東日本大震災で被災した広野町の現在を描いた「春を告げる町」や地方政界の恥部を追う「はりぼて」、人気アイドルグループの躍進と崩壊、再生の希望を描いた「僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46」とドキュメンタリーで傑作続きだが、「MOTHERS」は間違いなくその中に食い込んでくる。

テレビ報道の欺瞞を暴く「さよならテレビ」や、青臭くもがき続ける政治家を追う「なぜ君は総理大臣になれないのか」もよかった。「MOTHERS」は冒頭から豪邸に引き篭もる父の日常。リンチに遭って以来、満身創痍の男の情けなくだらしない身体。半裸で換気扇の下、割り箸にタバコを挟む姿が悲哀を誘う。

映画は生みの母・アナリンの親戚を名乗る男からメッセージが届いて以降、加速し始める。この従兄弟はなかなかの弁の立つ男で、かなり胡散臭いのだが〈清算〉のキーマンになっていく。このあたりは監督の構成のうまさ。引き込まれる展開。被写体に寄り添いながら一定の距離を保っているのがすごい。

父との会話はやはり親子のそれだし、アナリンとの再会前後で(照れ隠しもあるだろうが)テンションの落差が激しい姉、その素直な背中。肌の温度が分かるぐらい近くに感じた。どこまで監督の作為なのだろうかと疑いたくなるキャラの濃さ。カバーを被ったランボルギーニからして引きが強すぎる。

アナリンの「お父さんを大事にしてね」の言葉でスイッチが入り、止まらなくなってしまった姉の迫力よ。「感謝はしている。でも、早く死んでほしい」と。これだけ強い言葉が出てくるなんて、また、それを引き出した(あるいはそういうシチュエーションを組み立てた)監督のエグさよ。

立ち位置的には「行き止まりの世界に生まれて」に近いのかなあ。カメラを持つことで家族との距離を再定義する試みのようにも見える。「行き止まりの〜」は個人的に良くも悪くもホームビデオ的面白さの域を出なかったのだが、「MOTHERS」はもう一歩映画的に踏み込んだ魅力があった。

ただ、この未完の物語(このワードチョイスすら若干憚られるが)を、実在する個人の人生をどこまで面白がり、好き勝手に語っていいのかという葛藤はあるのだけれど。とにかくことしのドキュメンタリー、いや、新作映画の中でもトップクラスに好きな映画でした。感想おしまい。