映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「朝が来る」感想

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朝が来る、みた。不妊治療の末に男の子を養子に迎えた夫婦と、中学生で子どもを産み手放さざるを得なかった母の話。永作博美井浦新蒔田彩珠の繊細かつどっしりと重みのある演技は素晴らしいけど、それだけで物語は駆動できないだろう。申し訳程度のミステリー要素が邪魔をしてチグハグな印象に。

飲み屋で同僚に無精子症であることを告白する夫=井浦新。諦めまじりに苦味を噛みしめるようにことばを吐き出す様のリアルよ。隣の山本浩司もいい。あと旅館で養子縁組の番組を食い入るように見つけるその姿。じっと見つめる横顔と、どこもなく力ない背中。切ない。本作のハイライトの一つ。

永作博美は「見つめる」演技がすさまじい。夫を優しく慰める目、息子を見守る目、家にやってきた母を名乗る女に敵意を示しつつ諭そうとする目。どれもいい。蒔田彩珠はもはやうますぎて怖い。恋の喜びに震えるキラキラとかがやく笑顔。その安心しきった様!そして裏切りの末に道を求め彷徨う不良の顔。

原作は読んでないけど、おそらくミステリー?ですよね。その要素は各所に散りばめられている。鳴り続ける無言電話、黄色いジャケット、「広島の母ちゃん」からの手紙。しかしどれも出すタイミングがおかしい。先に答えを出してしまうので、のちに続くドラマが全て退屈な答え合わせに堕してしまう。

俺には謎解きのあいだに挟まれるドラマを極限まで膨らまし、そちらを中心にしようと苦心したように見える。というかそこにしか関心がない。しかし、元のミステリーの骨組みも十分強いので、切り崩しきれず、無残にも中途半端で冗長な「演技合戦」になってしまった。

そもそも俳優の演技にフォーカスして、そこから生まれるエネルギーですべて話を動かそうとする作りがあまり好きではない。井浦新の佇まいや蒔田彩珠の泣き顔に頼りすぎ?俺は別に演技を見たくて映画館に行くわけではない。あくまでそれはドラマに乗っかるための仕掛けでしかないはず。

蒔田彩珠は悪くないのだが、彼女に物語の中心がスライドしたあたりから関心を失ってしまい、途中、完全に違うことを考えてしまう瞬間があった。時系列をシャッフルした構成といいエモーショナルな演出といい、食べ合わせが悪すぎた。それぞれ味は悪くないのに混ぜて失敗した感。残念。