映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ジオラマボーイ・パノラマガール」感想

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ジオラマボーイ ・パノラマガール 、みた。原作誕生から32年間の東京の顔が多層的に折り重なり、コロナ後のいま異様なパラレルワールドに映る。たとえ「世界」に終わりがやって来たとしても、リビングの電球は変えなきゃいけないし、17歳の誕生日はやって来る。そして世界は常に彼らを祝福してくれる。

拾った学生証は手渡しで届け、オザケンのレコードを貸し借りし、戯れに村上春樹のジョークを飛ばす女子高生。SNSも出てこない。LINEの返信がいつ来るかドキドキすることもない。とても今の青春を描いているとは思えないが、この世界ではこうなんですと言わんばかりに(おそらく)原作に忠実な設定。

何気ないとある朝のドタバタがこの映画におけるハルコと僕たち観客の「ファーストミート」であるが、この時直感したハルコの未来を祝福するような眼差しは、途中の不穏な背景描写で若干揺らぐものの、エンドクレジットの一連の演出を見て、やはり間違っていなかったと確信するに至った。

しかし、果たして当の高校生たちはこのボーイミーツガールを「自分たちの物語」として読むのだろうかという視点で見ると、若干の疑問が残る映画ではある。東京はもう「スクラップ&ビルド」で成り立っていない。死に向かって緩やかに衰微しつつ、付け焼き刃の再開発で延命を図る街だ。

重要なスポットとして東京オリンピックの選手村建設地が出てくるけど、これを東京の発展の象徴と捉える人はどれだけいるのだろう。オープン前の渋谷パルコも登場するが、かつて「渋谷系」がもてはやされた頃のそれとは全くちがう。良くも悪くもバブルを引きずっていて、パラレルワールドでしかない。

「世界の終わり」を予感させる不穏な演出も一方で散りばめられた作品だが、なかなか表にに顔を出してこない。原作未読なのでどのように拾えばいいかは迷うところだ。低体温のまま異様な日常が進行するウィズコロナの2020年に重ねることはできるが、ハルコとケンイチの心象描写以上の読みが難しい。

俺はこれを世界を「パノラマ」で見るか「ジオラマ」で見るかという違いの象徴として捉えている。作り手が「お遊びだった」と語るあのラストこそ、子どもたちが「パノラマ」で空を見上げた結果の奇跡なのではないか。だが「ウィーアーリトルゾンビーズ」や「天気の子」の後にこれは能天気だとも思う。