「アスワン」感想
アスワン、みた。東京フィルメックスコンペ作品。ドゥテルテ政権下のフィリピンで、警察による「超法規的殺人」に苦しめられる市井の人々を追うドキュメンタリー。警察がろくに捜査もせず無実の人を殺し、釈放と引き換えに金銭を要求する世界。これが現実だということが何よりも驚きだ。
「警察」ごっこでじゃれ合い、ゴミを拾って生活をするスラムの子どもたち。映画はその中でもひとりの少年にフォーカスしていく。面白いといえば面白いのだが、若干作為的な匂いを感じてしまった。また、日々運ばれる死体を受け入れ続ける教会の男の戦いは、最後まで虚しかった。
街の人びとの視点から描かれるのでアスワン=伝承世界の妖怪=公権力の顔が一切見えてこないのが恐ろしい。警察官はただそこに在る得体の知れない「力」であり、総本山であるところのドゥテルテの顔は一切映らない。どこまでも遠いところで生殺与奪の権を握られる絶望。この物語に終わりはあるのか。