映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「CURE」感想

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CURE、みた。ひっくり返りそうになるぐらいキレキレで面白い!高部にとって間宮は数々の奇跡を起こす聖人であり、同時に世界の秩序に挑戦する悪魔でもある。多用される長回しのザラつきと冷たさ、そして唐突にカットが切り替わる緊張感。見てはいけないものを見てしまった。超絶大傑作。

妻を病院に送るバスの車窓の浮遊感は「ウルトラQ」の「あけてくれ!」を思い出す。ひさびさに家で映画見ながら何度も声を出してしまったよ。佐久間の家の壁に描かれた「×」の絵、ラストシーケンスで高部が心地良さそうにタバコをくゆらす先に映る惨劇。しかし、なぜだろう、不思議と不快ではない。

むしろ何度も何度も裏切られ、ショッキングな展開が続くのに何故か心地よい。ここに居て良いのだという安心感がある。マジメに生きてきた高部が、その抑えきれぬ衝動を表に出しはじめる(いちいちモノに当たる、人を殴る笑)姿に、えもいわれぬ「癒し」を見出してしまうことは事実だ。

ただ別に俺は暴力を肯定したい訳ではない。それはたとえば「君の名は。」でティアマト彗星が糸守の村を粉々にし、「シン・ゴジラ」でゴジラが東京の街を蹂躙した時に感じる快感に近い。これらの場面は東日本大震災東京大空襲を連想させる。人によってはトラウマを刺激されるかもしれない。

しかし、現実に起きる悲劇に心を痛め、もう二度と起きないでくれと願うことと、映画にカタストロフを求め、スクリーンの中の破壊に滾ることは、根本的に違う。よって矛盾もしない。少なくとも俺は映画の中で現実を破壊したい。とりあえずメチャクチャになってほしい。現実に期待するがゆえの願望だ。

長回しが素晴らしい。計算された動線が、同じ画面に収められたアクションに、現在進行形で変化の意味を付与していく。冒頭の台所の夫婦の会話。二人とも目線が合わない、奥に行ったり手前に来たりウロウロする妻と、画面の中央で妻を追いかけながら捕まえられない夫。そういう関係なのだと分かる。

分厚い雲に覆われた浜辺に現れる間宮の場面も素晴らしい。あと、高部と佐久間が「催眠術」の可能性についてベンチで語る場面。それから佐久間家で真相の断片が語られる終盤の山場。長く撮った後に、パッとカットを切り替える。予定調和は崩れ、ずるずると世界は崩壊していく。編集の妙。

間宮が女医を操作する。割れた瓶から水が溢れ、無骨なコンクリートの床を伝う。ただそれだけ。なのにバクバクと心臓が鳴る。とてつもなく面白い。床を濡らす水を見て興奮する。言葉で説明しても意味不明だが、これこそ映画を見るよろこびだとも思う。「伝道師」まわりのオカルトめいた演出も好き。

あとこのじめっとした映像の手触りは、この時期だからこそだと思う。ダボっとしたファッション、重そうな髪型、妙にくたびれた(それは映っている建物がいまでは古くなっているからだけど)街並み。エンドロールの夕焼けの味わいよ。黒沢清にファンが多い理由初めてわかった。邦画ベストに入れよう。