映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー」感想

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A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー、みた。不慮の事故で亡くなった男が幽霊となり、妻の残る家に帰る。時空をさまよった末にたどり着くのはやはり"あの時"だった。たとえ赤色巨星となった太陽が地球を飲み込み、宇宙中の原子がバラバラになっても、僕が「いま、ここ」に生きた事実は揺るがない。

何かが起きるのを待っているかのようにシンメトリーの世界を捉える映像。どことなく無機質で死の匂いを感じるが、その均質性は男の「死」=「物語のはじまり」によって崩れる。そのあとに訪れるのは、むしろ生、温もり、愛情のイメージ。モシャモシャとパイを食べる妻。誰も見ていないはずの一コマ。

「人は遺産を残そうとする。自分が消えても覚えていてもらうために」と、酔っ払いの男が興奮気味に語る。僕たちが大切にしている思い出の品も、生活の匂いの染み付いた家も、青春の記憶が詰まったあの時の通学路も、いずれ跡形もなく消えてしまう。人類だっていつかは絶滅する。人生は無意味なのか。

いや、そんなことはないはずだと、映画は最後に答えを出す(と自分は読んだ)。幽霊となった男は、ひとりで夫の遺した曲を聴きながら涙したり、いつも通りに出勤する妻を「見る」。移民の家族が食卓を囲う様や、にぎやかな若者たちのパーティを見守る。誰も記録しない、ありふれた日常の光景。

そして開拓時代の家族がインディアンに殺され、骨になって朽ちていく様を、ただじっと見つめる。どの本や物語にも残らなかった人生。彼以外、いまは誰もその事実を知らない。僕たちの人生もいずれ同じ道を辿る。しかし、誰も覚えていなかったからといって、その事実がなかったことになるわけじゃない。

僕ら観客は幽霊といっしょに、誰も知らない、本人すら覚えていない、平凡な日常な一コマを「見る」。つまり、観客がみずからの生の証人となる。フレームを意識させる丸みを帯びたスクリーンも、僕たちが「観察者」であることを強調する。自分の生は「いま、ここ」で証明するしかないのだ。