映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「FUNAN フナン」感想

f:id:StarSpangledMan:20201226164951j:image

FUNAN フナン、みた。クメール・ルージュ抑圧下のカンボジアを舞台に、息子と離れ離れになった母親を描くアニメーション。都会的な生活をしていた家族が、農村へ強制移住させられ、飢えに苦しんでいく。ただこういう事実があったということに落ち込んでしまった。ヤシの木の並ぶ野原の美しさが残酷だ。

愚かなカルト的反知性主義が、人びとの生活を破壊していく。革命の大義名分を振りかざして食材を独占したり、金品を奪ったり、見ていて辛かった。生き残るために男性に取り入る女性、その結果自ら命を絶ってしまう子どもも登場する。たとえ他の女性に恨まれようとも、生きるためなのだと言い聞かせて。

そういう意味ではフェミニズム的視点も外していない作品と言えるかもしれない。明らかに無謀な試みであるにもかかわらず、洗脳と暴力によって地獄に突き進んでいく。どんどん盲目になっていくクメール・ルージュと、それに従うしかない一般市民。どこか既視感があり、他人事とは思えない。

映画はあまり感情を煽りすぎず、抑制を効かせた演出になっている。たとえば子どもとはぐれたり、革命軍に逃亡が見つかったり、仲間が死んだり…といったショッキングな場面はあえて見せない。「音」でほのめかす程度にとどめている。ただゆっくりと迫る死を待つしかない絶望。

その凄惨な状況に反して、つねに宝石のような美しさを放つカンボジアの農村の景色。本来であれば、楽園のような場所なのかもしれない。しかし、人の手によってそれは地獄にも変わり得る。映画のラスト、丘の向こうに見える景色の「変わらなさ」があまりにむごかった。国境で全てが決まる世界。大傑作。