「晩春」感想
晩春、みた。いままで通り父との暮らしを望む紀子と、彼女を気遣って結婚を勧める周囲の人びと。やもめの父に対する紀子の感情は、単なる心配を超え、少々倒錯した嫉妬や独占欲のようにも見える。京都旅行の枕を並べる場面が妙に艶めかしく感じられたのは自分だけだろうか。とても面白かった。大傑作。
当時の結婚観や男女の貞操観念がよく分からないので、何をどうやって読み取ればいいのか、正直計りかねているところもある。「お父さんのこととっても嫌だったんだけど…」のあとに続く言葉、それから、ふたりが本心を語り合うクライマックスの場面で挿入される壺のショット。アレ何でしょうね。
部屋の真ん中にポツンと置かれた壺。俺にはどれだけ言葉を尽くしても交わることのない父と娘の孤独が、あのショットから伝わってくる気がした。同じ空間にいるのに、ぜんぜん違う景色が見えている。自己犠牲的に娘を「嫁に遣る」父の気持ちとは裏腹に、それは娘にとっては残酷な追放のようにも映る。
そのあとの小野寺と父親の会話もいいな。「女の子はつまらない。せっかく手塩にかけて育てても嫁にやることになる」と。それはまた自分が奥さんを迎えるときにやったことでもあるのだが。一人になった父は、自分でハットとコートをハンガーにかけ、リンゴを剥きながら静かにうなだれる。
「晩春」とは強い絆で結ばれていながらも、つねに孤独を感じ続けてきた父と娘の卒業の物語なのではないかと思う(卒業という言葉はぜんぜんしっくりこないが、他に適当な表現も見つからないので…)。「秋刀魚の味」は以前見たけど、同じテーマながら180度異なる印象を受けた。もっと小津を見よう。
原節子演じる紀子は、そこに性的な意味を含むかどうかはともかく、母親の代わりに世話をしているというよりも、父親のことを疑似的な夫とみなしているように感じたのだけど、実際のところどうなのでしょうね。女性の感想も聞いてみたい。