映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「紳士協定」感想

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紳士協定、みた。反ユダヤ主義に関する連載を書くためユダヤ人になりすまして実態を探り始めたフィルは、至るところに「紳士協定」があることを知り…。周囲の態度が豹変する恐ろしさ。思想や言葉では足りない。ただの「良い人」がより事態を悪化させる。行動のみが未来を変え、過ちを正す。大傑作!

実はユダヤ人ですと名乗って表に出てからまわりの接し方が変わる過程があまりにも怖い。クリスチャンのエリート白人が接することのなかった苛烈な差別。しかも表立ってではなく、「難しい言葉」で、巧妙に。アパートの管理人、ホテルの受け付け、息子の学校の同級生…。名前と肩書きが変わっただけで。

観客が「差別」を体感するための仕掛けとして、これ以上のものはないのではないか。語弊はあるかもしれないが、すごい発明だと思う。ハリウッド映画で初めてユダヤ人差別を正面から扱った作品とのことだが、残念ながらその鮮度は失われていない。日本でも「ユダヤ人」にさまざまな属性を代入できる。

この物語の肝は彼の作戦をともに戦うアン(セレステ・ホルムはアカデミー主演女優賞も納得の演技。最後の「プロポーズ」の場面もいい)や、幼なじみでユダヤ人のデビットでもなく、フィルの婚約者・キャシーであろう。ユダヤ人差別に嫌悪感を示す「良識ある」「リベラル」だが、根底には優越感がある。

結局、場の空気を読む、めんどうに巻き込まれたくない、なぜユダヤ人の振りをするんだ、という不満が見え隠れする。そこに当事者意識はなく、フィルはそういう「良い人」こそが差別の構造を助長するのだと喝破する。とても耳が痛い。俺も胸を張れるほど「行動」はできていない「言葉」だけの人だから。

しかし、過ちを犯した人も「行動」から未来を変えられるのだと、この映画は呼びかけている。アクティビストであれと。時々引用してるけど、上野千鶴子の「被害者であり続けることが、そのまま加害者性に転化する」という言葉を思い出した。

フランク・キャプラの理想主義もいいが、俺はエリア・カザンの方がドライで好きかも。「波止場」や「欲望という名の電車」の泥臭さがとても良い。