映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「わたしの叔父さん」感想

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わたしの叔父さん、みた。体の不自由な叔父と暮らすクリス。冒頭10分、セリフがない。最初の言葉は「ヌテラは?」。暴動や移民問題のニュースが流れる「世界」とは、隔絶されたふたりだけの空間。ただ、いまの生活が続けばいいと願うクリス。しかしそこには居心地の良さだけではない、緊張感がある。

デンマーク版「小津映画」との評を聞いて納得。たしかに型としてはそのまんま同じだなあ。テレビから漏れ聞こえるニュースの情報さえなければ、いつの時代か分からないぐらい、クリスと叔父さんの暮らしは質素で、おだやかだ。めざまし時計が鳴って、パンを焼いて、特に喋るでもなく朝食をとる。

事件といえば牛の出産ぐらいで抑揚のない生活。まわりの人は「夢はどうするの?」とか「いつかは一人で暮らすよね」といった言葉をかけるけど、彼女の望みは、叔父さんと牛とでいまの暮らしを続けること。しかし、その生活には言葉がない。叔父さんは寡黙だし、家畜はつねにクリスに従順である。

ゆえにどんどん彼女の世界が内側に閉じてしまうのではないかという、妙な緊張感がこの映画には漂っている。クリスのマイクに対する態度(さすがにちょっと可愛そう)は、その最たる例だ。しかし、「わたしの叔父さん」は概してさざなみのような映画だったと思う。彼らの幸せの解釈は観客に委ねられる。

最初から最後まで映画が写すのはクリスと叔父さんの日常で。そこにふわっと風が肌を撫でるようにかすかな変化が起きて。確実に何かが起こっているけれど、クリスも、叔父さんも、表情ひとつ変わらない。その「変わらなさ」が、ユーモアと緊張を行き来する。なかなかに独特で面白い映画でした。