映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ノマドランド」感想

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ノマドランド、みた。知らない世界を生きてみる。そんな体験が映画を見るよろこびの一つなら、これほど映画的な映画はない。ただ働いて、メシを食い、寝る。延々と続く地平線を旅するファーンは、人に頼らない。ノマドな生き方に憧れるのではない。孤独を受け入れて生きる彼女の勇敢さに感動するのだ。

どこまで行っても涯てのない大地を進むファーンのヴァンは、まるで彼女の生き様そのものである。夫と暮らした街を離れ、次の「家」に住むことを拒むかのように浮浪し続ける。しかし映画はそんな彼女の姿に寄り添いすぎず、かといって否定もしない絶妙な距離感で追っていく。

地球の向こう側にはこんな生活をしているんだ。そこには想像もしない喜びや悲しみがあって、たしかに彼らは実在しているのだ…という新鮮な驚きと感動。ジャオ監督の前作「ザ・ライダー」に続き、ルポルタージュ的アプローチで描かれるアメリカの格差社会の現実を、僕はただじっと見るしかなかった。

毎日規則正しく昇っては沈む太陽。どこまでも伸びていく地平線。コインランドリーのドラム式洗濯機。ただお腹を満たすため、駐車場代を払うために臨時雇用で金を稼ぐ。あまりに機械的すぎて、何のために生きてるんだろうと思う瞬間もある。循環する、無機質な日常。この感覚は身に覚えがある。

ファーンはどこに根差すこともなく、孤独な生活を受け入れて旅をする。しかし、だからといって彼女は寂しい人生を送っているわけではない。「また、どこかで」出会える仲間がいる。薪を囲んで語らったり、ひさびさに再会した旅人とよろこびを分かちあったりするその瞬間に、放浪の理由があるのだろう。

リンダ・メイやスワンキーなど、ファーンのノマド生活仲間はなかなか個性豊かで愉快な人たちだ。なにより主演のフランシス・マクドーマンド。肌に刻まれた深いしわ、無造作に切られた髪、力の抜けた涼しげな笑顔。ぜんぶカッコいい。ファーンという「そうとしか生きられない人」を魅力的に演じている。

一方、映画としてはなんとなく「ここで終わるのか?」が3回ぐらいあり、僕の中で着地点を見失ってしまったのは否めない。「ザ・ライダー」の方がその点はもっとシュアだったかな。でも、その分本作は多角的で、豊かな映画にもなっていた。朝焼けの冷気が伝わってくるような映像もいい。必見の作品。