映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「街の上で」感想

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街の上で、面白かった。今泉作品は人間がカメラ/観客を意識していない。わざとらしい名言は吐かないし、会話は微妙にズレている。ただ、そこにカメラをポンと置いて撮ったような生々しさがある。「成長」を避け、ただ存在を愛でるのだ。キャラ立ちした四人の女性に対する若葉竜也の受けの演技が良い。

今泉作品の真骨頂と言える長回し。しかし、今回は「mellowや「愛がなんだ」で見られたヒリヒリとした緊張感は、いい意味で薄められていると思った。関係に対立構造がないから?いや、若葉竜也が徹底して受け身だからかもしれない。「えっ」とか「そうっすね」しか言わないし笑 彼がぜんぶ吸収してる。

わりと序盤、古着屋で痴話喧嘩する男女の会話は、ふたりの掛け合いに目が行きがちだけど、じつは若葉竜也のリアクションがずっと面白いので見てほしい。あと深夜の恋バナの長回しはすさまじい。中田青渚が一ヶ所セリフを噛んでいて、それがそのまま採用されているのだが、妙な臨場感があって逆に良い。

今泉作品の「えっ」とか「あー、いやー」みたいな意味のない相槌や感嘆詞って、どこまで台本に書いてあるんですかね?計算の外にはみ出したようなライブ感が生まれて、ほかでは見られない空気感をまとっている。ふつうの映画だとあんまり多用しないですよね。物語を描くなら、そこは省いてもいいから。

でも「街の上で」やその他の今泉力哉オリジナル作品の魅力は、物語ではなく会話にこそあると思ってて。会話を描くなら、一見物語をなぞるだけなら不要なフィラーワードを意識的に取り込む必要があるんじゃないか。だって現実ではリードタイムなしで当意即妙な返しなんて相当気が合わない限り無理だし。

完ぺきに噛み合う会話なんて存在しない。お互い違うこと考えながら、見た目上はうまく会話のラリーが続くことある。おや?っと思わせる間の置き方が絶妙なのだ。ホントにその場で相手のことばに戸惑ったり、びっくりしたりして、えいやっと返しているように見える。この「ズレ」こそが今泉作品の肝だ。

キャストが好きな人しかいない。みんなブレイク中の役者だけど、去年予定通りに公開してたらまた違って見えただろう。穂志もえか、良かったなあ。主人公を浮気した上で振る。嫌味な女に見えてもおかしくないキャラなのに、可愛げがあるんですよね。四人の女性でいちばん本心を隠してるようにも見える。

青君を前にする度、おそらく自分の中に湧いた予想とはちょっと違う感情に困惑したような目をする。いや、自分がそう見てるだけなのかもしれないが。古川琴音のキャラもクセが強い。あまりふだんの交友関係が想像できない人物だ。上映会後の言い掛かりが面白かった。青君のことどう思ってんだろう。

萩原みのりは安定している。が、四人の中だと意外にもパンチが弱い。彼女だけほとんど青君に関心ないからかしら。対若葉竜也の演技だと、彼女が唯一ほぼことばと本心に乖離がないように見える。最高だったのが中田青渚。関西弁のフランクな性格。荒川青という人間に興味津々の様子。とにかく可愛い。

青君のことは異性として見てないだろうし、いまのところ発展の兆しもないが、出会い方やタイミングによってはもしかすると…という雰囲気が絶妙。城定イハのキャラがいちばん人によって受け取り方変わりそう。苗字を説明するとき「トンカツ定食の定です」と言うのが好き。彼女の世界観が垣間見える。