「桜桃の味」感想
桜桃の味、みた。人生に絶望し、自殺を決意した男が、その手助けをしてもらおうと道ゆく人に声をかける。博物館で働く老人が、男の自殺を止めようと説得する件りがすばらしい。あの世から見に来たいほど美しい世界なのに、あんたはあの世に行きたいのか。ロングショットで語られる人生が心を軽くする。
正直、最初の方はわりとウトウトしてしまいました。時間を置いて、またいつか見直したいと思う。しかし、「桜桃の味」とはいいタイトルだ。移ろう四季と自然の美しさになぞらえて、人生の山谷を語る。桜桃の味を忘れてしまっていいのか。大げさではなく、生きる理由ってそういうところにあるのかも。
イランの砂っぽい風景がとても興味深い。そして、助手席に座るのは、クルド人、アフガニスタン人、そしてトルコ人。この国の地理には明るくないのだが、わりと多国籍なことに驚いた。その意味を考えたいところだけど、知識がないのが残念だ。主人公のバックグラウンドは一切語られず、感情移入を拒む。
この男が何者であるかに関心を置かないところが、最後唐突に挟まれるオフショットの演出と繋がっていると思う。ゆえにキアロスタミの持ち味である美しいロングショットの数々も効いてくるのだ。アレハンドロ・ホドロフスキーの「エンドレス・ポエトリー」に並んで好きな人生讃歌映画になった。
あと、関係ないけど冒頭の市街地、寄せ場にあつまる労働者とごっこ遊びをする子どもの対比が面白かった。「そして人生はつづく」の高速道路の渋滞シーンを思い出した。ほかにもアマプラにキアロスタミ作品入っているから見なくては…。