映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「トゥルーノース」感想

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トゥルーノース、みた。北朝鮮の収容所の現実を描くアニメーション。正直、演出には粗い部分も多く、作品世界への没入を阻まれたのだが、なにより「メッセージ」の強い映画だと思った。観客は強制的に「目撃者」にされる。あまりの凄惨さに脚色を疑いたくなるけど、ぜんぶ本当なんだろうなあ。必見。

「生還者」の視点から語られる構造なので、とりあえずの安心感はある。が、そうやってのんびり構えていると、当然ながらガツンとかまされる。最後に脱出劇があるんだろうなと最初に予感させる点もふくめて、非常に「エンターテインメント」しているのだ。いかに効果的に現実を伝えるか、練られている。

日本の童謡「赤とんぼ」が登場する。台湾映画「冬冬の夏休み」のクライマックスにも流れるが、ある程度海の向こうでも知名度があるのだろうか。圧政によって引き去られる親子といえば、クメール・ルージュの革命をテーマにした昨年末公開の「FUNAN フナン」を思い出す。生き残るために人間性を捨てる。

途中、主人公が労働党の幹部の子どもたちに「日本から来たブタ」と罵られ、獣のように扱われる場面がある。そんな局面でも、彼はプライドを捨てて切り抜けるようになるわけだが、その「たくましさ」は、やがて「さもしさ」や「醜さ」に変化していく。異常な環境でいかに人間性を保つのが難しいか。

人としての尊厳が損なわれ、人間性がねじ曲がっていく過程は、嫌なほど見せつけられる。妙に安っぽいCGの人間たちは、はじめ違和感があったのだが、こうもモノのように扱われていると、その無機質さも必然のように思えてくる。これが表情豊かなピクサー製のアニメだったら、全く違う印象になったはず。

やはりこんな環境で正気を保っていられる自信がない。国境を隔ててすぐ向こう側の韓国では、みんな豊かな生活を享受している。なぜ、生まれた場所がちがうだけでこうも酷い目に遭わなければならないのかと、これほどリアルに実感する映画もない(この国に生まれたことを純粋に誇る老人も出てくるが)。