映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「この世界に残されて」感想

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この世界に残されて、みた。ホロコーストを生き抜いた少女と寡黙な意志が心通わせるハンガリー映画。クララはアルドに亡くなった父を重ね、恋愛に近い感情すら抱いている。親子のようにも、男と女のようにも見える綱渡りの関係はふたりだけのもの。「ウソついてる?」「いつもだよ」のやり取りが良い。

アルドがクララを恋愛対象として見ることはなかったと思うが、しかし、彼女のその魅力にハッとするような瞬間はあったのではないか。ふたりで暮らせたら、ホロコーストで失ってしまった家族を取り戻せるかもしれないと思いつつ、それはクララのためにならないと知っている。

多くを語らないが故に、アルドの葛藤や戸惑いの重さが見えてくる。クララが徐々に心をひらき、やがて恋のような感情を抱くようになるまでの過程も丁寧に描かれていて、少々イレギュラーなふたりの関係をすんなり受け入れることができた。大戦後のハンガリー史が絡んでいる部分は、うまく飲み込めず。

いちばん好きなのはラスト。クララとアルドのやり取り。ふたりの信頼が見て取れる。そして、こういう時大抵男の方がさびしそうな顔をする。御多分に洩れずというべきか。アルドの何とも言えない表情は、約90分間彼らを追い続けてきた観客にしか分からないものだろう。すべてこれで良かったんです、と。