映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「いとみち」感想

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いとみち、観た。これは素晴らしい!母を亡くした内向的な少女が、三味線やメイドカフェの仲間たちと向き合い、成長していく様を描く。津軽弁のあたたかく素朴なリズムと、津軽三味線の荒々しいパワフルな音色が、迷える少女を導いていく。三味線を弾くその表情がすべてを雄弁に物語っている。大傑作!

津軽弁がマジでなに言ってるかわからないレベルでキツい。パンフのインタビューで演者が口々に「これ青森県民以外わかるの?」と漏らしているが、もちろん理解できるはずがない笑 しかし、言葉のリズムや、そこに包まれている青森の暮らしの匂いや空気にこそ、この物語の肝がある。だから心配無用。

駒井蓮はすごい。完全に女優のオーラを消し去っているし、そこらへんにいる田舎女子にしか見えない。言葉で自分を表現できない、一見弱そうで垢抜けない女の子だけど、わりと頑固で、選んだ道はどんどん進む、真の強い子でもある。「あはぁ」みたいな相づちが可愛い。そして三味線を弾く姿ね。

その必死で演奏に向き合う姿が、いとのおばあちゃん(西川洋子、ガチのレジェンド奏者らしいです)の優しくも迫力ある表情との対比になっている。おばあちゃんの演技めちゃくちゃよかったですよ。三味線うますぎてさすがに途中でわかったけど、最初はフツーにベテラン女優さんかと思った。

豊川悦司も最高です。ちょっと浮世離れした、旅人のような佇まいのある、不思議なお父さんを、しかしファンタジーにならずに演じている。職人技ですね。横田真悠のコメディ演技も捨てがたい。女優といえばSeventeenで、non-noの彼女はそれほど演技仕事ないものの、「踊ってミタ」からの進化に驚いた。

腹の底に溜まったドス黒い感情を吐き出す場面もあるのだが、これはすごくいいなと思った。また、黒川芽以や中島歩といった助演たちの演技も安定している。メイドカフェを巡る話はそれなりにベタなのだが、ふたりの存在感(とトヨエツ)がご当地映画の枠を軽々しくぶっ壊し、作品のレベルを上げていた。

板柳の風景や、岩木山の景色もうつくしい。あの高くそびえ立つ山が、いとの乗り越えるべき「壁」でもいるわけですね。また、青森空襲や地域間格差、そして「メイドカフェ」を巡るジェンダーの問題など、細かい目配せが効いている。しかも後者に関しては映画オリジナルの要素とのことだ。

横浜聡子監督は「少女ムシェット」「レディ・バード」「ローラーガールズ・ダイアリー」を参考にしたらしい。ご当地映画らしく爽やかな清涼感を湛えつつも、コロナ禍以降の「不確かさ」にすら目を向けた、ポスターのダサささえなければ…と思わずにいられないが、非常にいい映画でした。