映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「プロミシング・ヤング・ウーマン」感想

f:id:StarSpangledMan:20210723155430j:image

プロミシング・ヤング・ウーマン、観た。すさまじい毒を持った映画だ。これ観て「痛快!」って気分にはとてもじゃないけどならない。「お前はどうなんだ?」「無関係だと思ってないよな?」と迫るような。交差点で立ち尽くすキャシーが印象的。ずっとそういう人生だったのだろう。ラストカットが強烈。

観ていて楽しい映画では全くない。キャシーの「復讐」は正直脇が甘くないか?と思いながら観ていたが、多分その感想は正しい。キャシー自身、なにかを過去に置いてきてしまったような人物として描かれているからだ。マディソンを招いた、彼女の自室の様子は特にそれを表していたと思う。

ピンクで彩られたがらんどうの部屋と、どこかくたびれた水色のワンピースは、彼女の人生が大学生の頃から停滞しているのを教えてくれる。マディソンの大人っぽいノースリーブとのセンスの対比。これを童顔で優しそう(けど若干の垢抜けなさもある)なキャリー・マリガンが演じているのが肝だろう。

過去を描いた作品でありながら、(俺の見落としがなければ)一切回想の形を取らずに描いているのが面白い。キャシーとその友人を襲った禍々しい出来事は、すべて「現在」の関係者の口から語られる。作り手の「描いてはならない」という線引きなのだろう。それは極めて真摯で、正しい態度だと思う。

「アカデミー脚本賞」を獲ったのも、敢えて中心部分を回避しながら物語を組み立てたアプローチのすばらしさを評価されてのものではと思うのだけれど、一方、個人的にそこが映画的なスリル(それを求めるのも間違ってるのかもしれないが)には繋がらなかった。