映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「犬部!」感想

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犬部!、観た。誠実に作られた快作だ。「どんな命も見捨てない」と獣医をめざす花井と、彼に賛同して集まった「犬部」の物語。花井の夢はあまりに壮大で、綺麗事と云うひともいるかもしれない。それでもピュアに夢を追い続ける彼は、たしかに小さなところから命を救っていく。思ったより良かった。

毎日たくさんの犬や猫が捨てられ、愛護センターでは炭酸ガスによる殺処分が行われている。獣医として、この問題にどう立ち向かうか。だから当然、「犬はパートナー」みたいなぬるい決着にはならない。花井は「ぜんぶの命を救えるはずだ」と「犬部」を立ち上げる。映画は「犬部」のその後を描く。

林遣都はキリキリした純粋さを出すのがうまい。これは「火花」でも感じた。あのまん丸のクリっとした瞳が少年のようにまぶしく、みずからの保身や名誉など一切考えず、ひたすらに動物のしあわせのために身を粉にする様が危うくも見える。彼の親友となる中川大志の純朴さも良い。

しかし、中川大志の演技が印象的なのは、その瞳に「迷い」がチラつく瞬間があるからなんですね。逃げ出した実験用の犬を保護するくだりでも、中川大志の方は「これはやっぱりやめたほうがいい」と云う。一方の林遣都は「絶対に守る」と。ここの選択のちがいが、じつはクライマックスまで尾を引くのだ。

大原櫻子も単なる添え物にならず、林遣都中川大志とも異なる、バランス感覚を持った人物として描かれる。浅香航大はエリート感が絶妙。「今ここにある危機と僕の好感度について」に続き安藤玉恵の「お目付役」ポジションが光る。螢雪次朗岩松了は言わずもがな。こちらも犬を見る「目」が良い。

花井が「外科実習」を断るために猛勉強した過去や、「犬部」のメンバーが獣医の卵として彼の活動に関わっていく背景、「犬部」のおかげで犬と出会えた少女のお話など、とにかく物語の散りばめ方がうまい。エピソードの寄せ集めにならず、しっかり一本の映画になっている。脚本が相当良いと思う。

この映画を見て安易に「犬を飼おう」と思わせないように作っているのが誠実だと思った。これはペットの殺処分を減らすために奔走する獣医の話だけど、当然、観客は「ペットを飼うとは、いかに責任の重いことなのか」を知ることになる。かわいい犬の映像を期待すると面食らうだろう。