映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「岬のマヨイガ」感想

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岬のマヨイガ、観た。中身知らずにほんわか日常系アニメだと思って観たので、いい意味で裏切られた。「迷い家」伝承をモチーフに、震災で傷ついた少女が逞しく成長する様を描く。死を直接描かないが故に、霊的な存在がその虚しさを際立たせる。羊文学の曲が児童文学らしい優しさに深みを与えていた。

導入がかなり丁寧だった分、物語を畳むのが少々駆け足に感じられた。ユイ、ひより、おばあちゃんに関する情報の出し方やタイミング、「迷い家」のヒミツにまつわる展開など、ちいさくて地味だけど至るところに驚きが散りばめられている。非常に狭い範囲の物語だが、奥行きは十分にあるのだ。

ユイやひよりの経験する「別れ」について、それなりに直接的な描写がありながら、あまり「死」が前景化しない印象を受けた。ガレキの山と化した釜石の街並みに震災の生々しい爪痕を見るものの、つねに観客の目に焼き付くのはそこで暮らす人びとの「生活」である。

Before/Afterではなく、もうこれが日常であるということ。震災直後の東北はこんなに落ち着き払ったものではなく、これからどうなるんだ?という不安が渦巻いていたのではと(当時首都圏に住んでいた自分は)思うのだけど、良くも悪くもそこはさらりと描かれる。リアルな震災描写は主題ではないからだ。

大変な悲劇を機に彼岸と此岸の境があいまいになる。「夜明け告げるルーのうた」や「きみと、波にのれたら」など湯浅正明作品ににじみ出るポスト311の死生観に通ずるものを感じるが、どちらかというと「若おかみは小学生!」と比べたい内容だと思った。脚本もおなじ吉田玲子。

しかし「若おかみは小学生!」という平和な児童文学を「喪失を乗り越える物語」に読み替えた高坂希太郎はやはり異質だったのだなと思う。「岬のマヨイガ」にも、同様のエグみはあるが、あえてそれは真正面から乗り越えるべきミッションとしては描かれない。より大事なのは「迷い家」との関係だからだ。

エンディングで流れる羊文学の主題歌「マヨイガ」はすばらしかった。イントロからグッとギアを踏む疾走感!「行け 行け その明日が きみを苦しめようと」「行け 行け 痛み知る優しい人でありなさい」の歌詞は、この物語に於いて誰の目線からみた言葉なのだろう?と考えるのも面白いかもしれない。

主役のユイを演じた芦田愛菜に脱帽。「怪盗グルー」ですでに声優としての技術は証明済みだが、17歳(役と同い年!)の揺れ動く感情がそのままダイレクトにこちらに響いてきた。思えば彼女がブレイクした「マルモのおきて」は震災の年の春ドラマ。その十年後にユイを演じる事実に因果を感じなくもない。