映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「おもひでぽろぽろ」感想

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おもひでぽろぽろ、観た。アラサー差しかかった会社員が、十日間の暇をもらって田舎の親戚の家を訪ねる。その道中で思い出される五歳の記憶はどれも「子ども心に納得いかず、それでも我慢して飲み込んできたこと」。タエ子の悩みはすごく刺さりましたね。過去を消化できて初めて前を向けることもある。

タエ子とじぶんはほぼ同年代なので、背景となる時代がまったく違うといえど、子どもの頃の記憶との距離感、ノスタルジーの誘惑は、実感として近いものがある。先が見えなくて道に迷ったとき、たしかになぜかほとんど無関係の思い出がフラッシュバックすることってあるな〜と。それだけで見る価値ある。

タエ子がいま何を悩んでるのか、現代パートで直接「心情」として描かれるものは少ないんだけど、五歳児ながら引っ掛かっていたこと、ぐっと飲み込んで心の奥にしまい込んでいたことがドバドバと溢れ出すように描かれていく。この過程で、タエ子がどんな人間なのかもわかる仕掛け。

夜行列車の補助席に腰掛けて車窓を眺めるという体験も、もはやノスタルジーの対象だ。お父さんが買ってきたパイナップルが酸っぱくてがっかりしたこと、せっかくのお出かけなのに意地張ってしまってお父さんにビンタされたこと、お芝居の夢があっけなく潰されたこと。転校生に優しくできなかったこと。

作文で褒められたと嬉々として母に報告したら「給食残すな」と返されたこと。しかも、それが強烈な寂しさとして回想されること。一つひとつのエピソードが粒立っていて、観客に「共通の思い出」として幻覚させるだけの説得力がある。田舎の本家の無神経さも含めて、至るところに棘が仕込まれている。

おもひでぽろぽろ」のテーマは、山形のベニバナ畑に仮託されている。ベニバナはゴム手袋をつけて収穫しないと棘で手のひらが傷ついてしまう。素手では触れない美しい花。そして見た目は黄色なのに、水につけて、揉んで、天日に晒して、じっくり手間暇かけて初めて綺麗な紅色になる。

現代パートの今井美樹柳葉敏郎の会話の質感、呼気まで伝わってくるような生っぽさはすばらしい。いい意味でアニメーションらしくないと思ったら、プレスコ(最初に音をとってからアニメーションをのせる手法)らしいですね。現代と過去が交錯するエンディングも良い。また歳を取ったら見返そう。