映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「恋する惑星」感想

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恋する惑星、観た。香港の街角ですれ違う男女の恋をカラフルに描く。じっとり汗が肌に張りつく湿度と、こだわりに溢れたキュートなファッションと、猥雑でパワフルな香港の街並みと。恋の魔法にかかったような高揚感が一本の映画に詰め込まれている。これは「恋愛映画」ではなく「恋」そのものだ。

ウォン・カーウァイは「花様年華」も「ブエノスアイレス」もピンとこなくて、ファッショナブルだがそれ以上でも以下でもない、なんなら冗長で眠くなる…と思っていたが、「恋する惑星」は、よりポップな原石といった趣きで、やっとこの監督との向き合い方を知れた気がする。肩の力抜いていいやと。

お話自体、個人的にはあまり掴みどころがない。特に前半の金城武がドラッグのディーラーに恋するエピソードは、正直面白がり方が分からなかったのだけど、後半、トニー・レオンが主人公になってからやっと映画の骨組みを理解し始めた。彼の家から見える長いエスカレーター、香港旅行で行ったな〜。

あの坂の途中に海老ワンタン麺のお店があって、めちゃくちゃ美味しかった記憶がある。フェイ・ウォンが食材を抱えてお店に戻る途中、ランチ中の警官663(トニー・レオン)とばったり会って、一緒に歩き始める場面。あのごちゃごちゃっとした商店街の風景に、日常の輝きを見出してしまう。

恋する惑星」は「マネしたくなる」という意味で、非常にファッショナブルな映画だと思う。勝手に警官の家に忍びこんで模様替えをする、しかし住人は気づかない…というくだりは可笑しいけれど、知らぬ間に心を元恋人から塗り替えられてしまう男の心情をそのまま描いているようだ。

前半パート、金城武が落ち込んでマックの看板の前でハンバーガーにかじり付いたり、コカコーラのネオンの下でウダウダやったり…という場面がある。また、後半パートでは、元恋人と再会し、フェイからの手紙を開くコンビニが印象的な舞台として登場する。都会の「光」が彼らの恋を彩っている。

映画全体の雰囲気に乗せられて、トニー・レオンのタンクトップと白ブリーフすら気取らないキュートなファッションに見えてくる。なんとなく「恋の魔法のフィルターにかかれば世界はこんなにも美しいのさ」なんてキザな感想を抱いた。だから「恋する惑星」は「恋愛映画」ではなく「恋」の一形態なのだ。