映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ダゲール街の人々」感想

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ダゲール街の人々、観た。パリ14区の生活をスケッチしたアニエス・ヴァルダによるドキュメンタリー。モンタージュで紡がれる職人たちの手さばきがとにかく美しい!パンをこねる手、仔羊のモモを切る包丁の動き、お店のシャッターを閉じる腕…。霊的な厳かさすら漂う。彼らの生が主張している。傑作!

ファーストカットの「香水屋」のふたりの並び立つ絵からして、この映画はポートレート的である、と思った。これはエンディングにも繋がるが、どこか遺影のようでもある。もはやダゲール街の景色も、登場人物も、みんな姿を変え、この世にはないかも知れない。観ていてとても不思議な感覚に陥った。

しかし、一方でこの映画で描かれる生活は、どの時代や地域でも変わらない、普遍的な姿なのだろうという確信がある。枝葉のモンタージュに対し、幹のように映画を貫くマジシャンのショー。そして「夢を見ますか?」の問い。振り返ってみると、夢の世界で散歩をしているような雰囲気もある作品だ。

ただぼんやりと観ているだけでも楽しい映画なんだけど、それだけでは許してくれない緊張感が漂っていたと思う。マジックが魅せる魔法と、街の職人たちの磨きぬかれた所作、生活のにおいの染みついた技がオーバーラップする。そこには独特の詩情と高揚感があって。とにかくたまらなかった。