映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「コロンバス」感想

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コロンバス、観た。去年劇場で観てたらまちがいなくベストテンに入れてました。モダニズム建築の街で、人生の岐路に立った男女が邂逅する。時間の流れを感じさせない、ガラスとコンクリートの無機質な建物を温かみのある色合いで捉えた映像美。かえってふたりの心の機微が力強く迫ってくる。大傑作!

小津安二郎の作品に影響を受けているとは聞いていたけど、たしかにシンメトリーな映像が映画全体の強度を高め、モダニズム建築に彩りと表情を与えている。ル・コルビュジエ国立西洋美術館を思い出した。ただ無心でそこに一日中時間を潰せそうな居心地のよさ。映画はそれを見事に捉えている。

空間的な余白が非常に効いてくる映画だと思う。ケイシーがジンに好きな建物を紹介し、その理由を語る場面や、クライマックスの涙は、あえて音を切っている。わざとらしくエモーショナルな展開に振り切ることはせず、豊かな幅を持たせているのだ。特に「なぜこの建物に惹かれるのか」を語るケイシーの表情!

ケイシーとジンが柵越しに邂逅し、互いに距離感を探りながら、最後、柵の途切れた門の前で落ち合う。カメラの横移動に「物語が動き出す」予感を覚えた。まったく知らない他人同士ゆえの心地よさ、このままいつかまた他人に戻るだろうという切なさから来る、相手への渇望。どの会話シーンも素晴らしい。

しかし、感情の高まりがピークに達したとき、ふとそれが途切れた瞬間に、「わたしの居場所はもうここにない」と気づく。はっきりと言語化し得るような描き方にはなっていないが、あの静寂にすべてが詰まっていたと思う。みなまで言わずとも、誰もが「そうだよね」と納得したことだろう。

俺もジョン・チョーみたいな落ち着いた大人に話を聞いて欲しいなと思いました。そして「スウィート17モンスター」のヘイリー・ルー・リチャードソンの演技がとても良かった。年相応の無邪気さも、達観した大人っぽさも兼ね備えている。父の話になると頑固なジョン・チョーと良い対比になっていた。

編集も素晴らしかったと思う。リズムが良い。たとえば序盤の図書館でケイシーとマコーレ・カルキンの弟(役者の名前知らない)が、図書館の司書という仕事について話し合う場面。シンプルな切り返しの会話劇の中でも、カットの切り替えが絶妙で、会話のテンポがリアルに伝わってきて、唸ってしまった。