映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ミステリー・トレイン」感想

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ミステリー・トレイン、観た。エルヴィス・プレスリーの聖地メンフィスを舞台に、とあるホテルですれ違う三組を描く。銃声のくだりで引っ張って引っ張って…それかい!ってなるラストカット。「そんなもんでしょ?」なスカし方に、ジャームッシュの洒落っ気を感じて惚れる。永瀬正敏のクソガキ感最高!

あらすじにまとめると本当にどうでもいいストーリー。しかし、それを最高におもしろい「ジャームッシュ色」に染める。彼にしかなし得ない芸当だ。「ファー・フロム・ヨコハマ」の永瀬正敏工藤夕貴カップルがすばらしい。工藤夕貴の奔放ながら芯のしっかりした愛嬌。対する永瀬正敏のクールな幼さ。

永瀬正敏のジッポ裁き!タバコに火を着けてからポケットに放り込むまでの見事な流れ。おまえ相当練習したな〜と肘で小突きたくなる愛おしさ。素直になれずスカした態度を取りながら、工藤夕貴への愛はダダ漏れ。駅で「ありがとう」を返されて喜ぶ工藤夕貴。日本人あるあるをアメリカ人が撮る驚き!

ダイナーで変な男に絡まれてホテルに逃げ込むローマ人の女。あの、ダイナーの外で男が待ち伏せしているイヤ〜な感じ。なんとか視界の外に追いやろうとするが、映り込んでしまう。その気持ち悪さたるや。ギャグにならないギャグの居心地悪さがジャームッシュ作品の真骨頂だ。性格が悪い。

銃にまつわるドタバタの男三人組。物語の収束を期待させつつ、一向に本筋に入らない。「ダウン・バイ・ロー」的なオフビートな笑いの真骨頂であり、「レザボア・ドッグス」「ビッグ・リボウスキ」のスティーブ・ブシェミがいるおかげで、タランティーノコーエン兄弟のクライムモノの不穏さも漂う。

三つのラインが交わるラストカット(鉄道、パトカー、ピックアップ)は見事と言うほかなく、物語の終わりと始まりをズバッと表現している。何かが起こる予感のまま、エンドレスに続く日常。特別なイベントを期待する観客を突き放す、その独特の「抜け感」とも言うべき感性にジャームッシュを感じる。