映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「マイ・ダディ」感想

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マイ・ダディ、観た。病に侵された娘を助けるために奔走する牧師を描く。ムロツヨシ初出演作。タイトル以外の情報を入れずに観たけど、大いに感動してしまった。とても丁寧に撮られていると思う。一男でもひかりでもなく、とある人物が嗚咽する場面にグッときてしまった。乗り越えられない試練はない。

ムロツヨシのまとう善性、そこにいるだけでふわっと空気が和らぐような優しさは、その根底に哀しさがあるのだと、一生懸命に生きる人間はコミカルに見えるのだということを、改めて気付かせてくれる。TSUTAYAの脚本コンペ入賞作なので当て書きではないと思うが、ナイスキャスティングだ。

「神は乗り越えられない試練は与えない」と一男は説く。一男にとっては妻の死、それから娘の白血病がそれに当たるだろう。たしかに試練は時に抗し難く、事実として変えられないこともある。しかし、愛をもってその問題に接しなおしたとき、ふたたび彼らのもとに光が差し込んでくるのである。

あまり特別に捻った映画でもなく、いかにもコンペ受けしそうな内容ではあるけど、ディテールが光る作品だったと思う。ガソリンスタンドで説教の練習をするファーストカットから惹かれたし、フロントガラスの掃除を車内側から映す(=葛藤を洗い流そうとする?)場面も気に入った。

あと、ひかりがカツラを投げ捨てる場面もお気に入り。カツラを先に映して、カメラがパンにして、坊主頭のひかりが現れる。ドキッとする演出だ。一男とひかりの対峙するシチュエーションはどれも良く、父として病気を伝える場面のムロツヨシの「間」は、逡巡や苦悩が垣間見え、本作でも白眉の演技だ。

ネタバレになるから詳細は伏せるけど、クライマックスの親子の会話も良かった。一男がひかりの後ろに立つ。おたがい顔を見ずにことばを交わす。そして、最後になって向かい合う。この一連の流れに、ふたりが「過去」と「現在」といかに向き合うかが、描き込まれていたと思う。

この映画は一男がとにかくよく泣く。しかし、そのどれも裏側にある感情は異なるものであり、非常に繊細な機微が演技にも求められると思うのだが、ムロツヨシはそれに見事に応えていた。個人的にはコメディの印象が強かったんで、こういうシリアスな芝居でびしっと締めてくれると痺れますね。