映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「MINAMATA ミナマタ」感想

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MINAMATA ミナマタ、観た。心身に傷を負った戦争写真家が、再起をかけて水俣病を取材する。何度伝えても「戦争」はなくならない、カメラの前の被写体は苦しみ、死んでゆく。無意味のように思えても、繰り返される悲劇の前に立ち上がる。これを受け取ってあなたはどうする?と問われている気がした。

ユージン・スミス再起の物語としてはよく出来ているものの、彼を主人公にした結果、告発映画としての輪郭はボヤけてしまっている。あくまで活動の中心は現地住民であり、ユージンは戦場写真家のように、ただその場で事実を記録するのみ。彼の功績は、極めて個人的な「再起」に集約して描かれる。

この映画がふつうのジャーナリズム映画と異なるのは、ユージンはあくまで「仕事」として現地に赴く、隠された真相を明かすのではなく、すでに多くの人が声をあげている現状をさらに広く世界に伝えるというミッションを背負っていること。そして彼は写真家なので「アーティスト」の顔が前面に出ている。

ここらへんのバランスが絶妙だったのは光州事件を舞台にした「タクシー運転手」だろう。これはあくまで「外部」の目線を韓国人である主人公に背負わせつつ、さらに外国人ジャーナリストをそのバディに置くことで、自国民の活動に主体性を持たせつつ、「外部」への広がりを、奥行きをもって描いていた。

同じスタッフが制作した「マルモイ ことばあつめ」でも同様の手法で日本統治下の「同化政策」への抵抗をうまく扱っていた。「MINAMATA」は、ユージンの妻の伝記が原作であり、これらの映画で「友情」だったところが、控えめとはいえ「ロマンス」になっていたので、よりパーソナルな印象を強めている。

ジャニー・デップの演技は良かった。酒浸りで常に呂律が回っていないようなときと、写真家として信念に目覚めたときのシャキッとしたオーラとのメリハリの表現。対する美波は「下流の宴」のイメージだったが、あの力強くもフランスをルーツに持つアンニュイな美しい瞳に、しずかな闘志を感じた。

浅野忠信は演技のトーンが邦画っぽくあっさりとしていて、ジョニー・デップのコッテリ演技との相性に不安も感じたが、彼にウイスキーを持ってくるくだりの自然な所作を見ていると、もっと出番あっていいのにと思った。真田広之加瀬亮の怒りを帯びた演説がすばらしいのは言うまでもない。

浅野忠信は演技のトーンが邦画っぽくあっさりとしていて、ジョニー・デップのコッテリ演技との相性に不安も感じたが、彼にウイスキーを持ってくるくだりの自然な所作を見ていると、もっと出番あっていいのにと思った。真田広之加瀬亮の怒りを帯びた演説がすばらしいのは言うまでもない。