「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」感想
007 ノー・タイム・トゥ・ダイ、観た。英国の斜陽とジェームズ・ボンドというキャラクターの時代性に向き合ってきたシリーズ。なるほど、ダニエル・クレイグの花道としてこれ以上ない結論だ。スタイリッシュさとバカバカしさの行き来が絶妙で、やや長くても退屈せずに観られた。良い卒業式映画だ。
あまりシリーズには愛着がなく、ダニエル・クレイグ版以外だと「ドクター・ノオ」ぐらいしかまともに観ていない。そもそも前作にレア・セドゥが出ていたことすら記憶があいまいなレベルなのだが、ジェームズ・ボンドの記号性と、ダニエル・クレイグがそれを演じることの意味を見つけたラストだと思う。
アヴァンのイタリアのシーケンスはさすがの景気の良さで、スパイ映画を観ているな〜とうれしくなった。アナ・デ・アルマスの登場するキューバのパートも良い。しかし、全体的にアクションはモッサリしている。ネイビーのドレスを靡かせ、アサルトライフを担ぐ彼女をカッコよく撮れているとは言い難い。
話の展開上必要なのかどうか怪しい場面も多く、ハンス・ジマーの重厚な音楽がかえってテンポの悪さを強めている気がしなくもないが、リッチで華やかな世界観のおかげで良くも悪くも楽しめてしまう。しかし、ゆえにロケーションに新しさを感じないクライマックスはちょっと退屈だった。
ラミ・マレックが演じるヴィランも、あまりインパクトがないな〜と思った。観客の関心はボンドにあるので、彼がどんな動機で事件を起こし、このあとどういう結末を迎えようが、正直どうでも良いのである。ただの狂った人で描けば、もっとストーリーもシャープになったのでは。