映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ロゼッタ」感想

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ロゼッタ、観た。アル中の母とトレーラーハウスに暮らす少女を描く。ダルデンヌ兄弟パルム・ドールを勝ち取った作品。ガツガツと歩くロゼッタの背中を追う手持ちカメラの撮影がとにかくすばらしい。戦争映画か自然ドキュメンタリーのよう。ラストカットの表情もお見事!あの一瞬のためにある映画だ。

ロゼッタが工場をクビになってロッカーに立て篭もるまでの一連の流れにまず引き込まれる。トレーラーハウスやワッフル屋のワゴンなど、狭い空間を狭い空間のままに鮮やかな導線で撮影するテクニックがとにかくすごい。どのカットもハズレがなく、「すべて正解だ!」と思った。

どうでもいいのだが、ロゼッタがキャンプ場の沼に罠を掛けてマス釣りする場面、ビンを投げ入れた瞬間に引き上げるとすでに一匹捕まっている。いくらなんでも早すぎるだろうと笑 長ぐつをわざわざ外に隠してるのもよくわかってらなかった。家に置いておけばいいのでは。

これまで観たダルデンヌ兄弟の作品は「イゴールの約束」も「その手に触れるまで」も、「ここで終わってくれ!」というベストなタイミングでばちっと暗転する。本作もプロパンガスで自殺を図り、地獄までの道を歩くかのようにボンベを担ぎながら、その「重み」に耐えきれず、倒れた先に見たその「手」!

ロゼッタが他者の救いを受け入れる、心の壁が静かに溶解したのがわかる絶妙な表情。ぱっと見では変化がないのだけど、90分の積み重ねが、観客の目にドラマを読み取らせる。手持ちカメラで接写されるロゼッタのその顔は、ピュアのようにも、貧しさで荒んだ卑しい人間の姿にも見える。

「こいつが死んだら私は仕事を得られる(=まともな生活を送れるかもしれない)」と魔がさしてしまう瞬間。「イゴールの約束」が抑圧的な環境で善性に目覚める作品だとしたら、「ロゼッタ」はその逆だ。追い込まれた少女が耐えきれずに自死の選択まで迫られてしまう。しかし、絶望では終わらせない。