「TOVE トーベ」感想
TOVE トーベ、観た。「ムーミン」を生んだトーベ・ヤンソンの恋と創作を描く。彼女はじぶんが偉大な作家になることを知らない。はじめは画家を目指していたこと、親の抑圧や恋人への嫉妬に苦しみながらあの世界観をつくりあげたこと。すべて初めて知ったけど、自由に舞う彼女の半生に勇気をもらった。
著名な彫刻家を父にもち、芸術にたいするコンプレックスが強かったのも初めて知った。なかなか「童話作家」の肩書きを受け入れるにも時間が掛かったようですね。あれだけ世界的な人気を誇る作品も、彼女の名声も、初めから目指したものではないのである。
この手の伝記映画は、曲がりなりにも目指していたゴールがあって、運を味方につけつつも成り上がっていく…という過程が多いけれど、トーベはちがう。彼女の才能とじぶんを並べるつもりはないけれど、なぜだかその事実に俺は少し元気をもらった。トーベは手探りで道を開く冒険者だったのだ。
トーベが部屋でひとり酒を飲みながら舞うアヴァンタイトル。そのぎこちなくも躍動感あふれる踊りは、トーベの人生の軌跡そのものと言ってもいい。映画の主眼は「ムーミン誕生秘話」ではなく、恋に奔放なブルジョワ階級の女性・ヴィヴィカとの物語だ。これは一見「ムーミン」とは関係ないように見える。
しかし、物語を追うと「ムーミン谷」はまさしくトーベと世界の摩擦の形そのものなのだとわかる。ムーミンは知っていても本格的にその本や絵に入れ込んでいるわけではないので、ディテールを把握しきれないのが残念だけど、クィア映画として非常に示唆に飛んだ作品でもある。