映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「最後の決闘裁判」感想

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最後の決闘裁判、観た。面白かった!「騎士の誉れ」のベールが一枚ずつ剥がされていく。お風呂に入らない貴族が香水でむりやり体重を消したみたいに、神の力や騎士の栄光とやらで、この野生的な世界の血生臭さは彩られている。だれもが「自分を正しい」と思い込んでいるのが厄介で、面白いところだ。

ただ、すでに指摘があるようにあの第三幕の「真相」もまたそれまでの章と横並びで評価されかねない。「人それぞれ捉え方ありますからね」で終わらせてはならないこともあるわけだから。しかし、俺の心配はマルグリットの生きてるか死んでるか分からない疲れ切った表情の説得力でひっくり返される。

とにかく14世紀フランスのどんよりした世界の作り込みがすばらしい。詳しくは知らないが、たぶん当時にタイムスリップすればこうだったんだろう、と思わされるディテールの説得力。ジャン・ド・カルージュ=マット・デイモンの皮膚が厚くてゴツゴツした感じ。彼から見える世界の可笑しさよ。

ジャック・ル・グリ=アダム・ドライバーの、あのデカい図体で佇むだけで、場の空気すら占拠してしまうような存在感。しもべとしては優秀だが、リーダー的なカリスマ性のなさはピエール=ベン・アフレックとの対比で浮き彫りになる。しかし、なんだあの金髪!一人だけHiGH&LOWだったぞ。リアルなのか?

ゴワゴワした鎧を着ていかにたくさん人を殺して税を巻き上げたかを競い合う男たちの間に立って、小綺麗な存在感を示しつつも、しかし、中世ヨーロッパの雪と泥の世界になじんでしまうマルグリット=ジョディ・カマーはすばらしい。お姫様感もありながら、闘う人の目をしている。いや、徐々になるのか。

地味にフランス国王と王女のネギみたいにひょろっとした感じもよかった。騎士たちとは明らかにちがう世界の人たちとして描かれているし、たしかに当時の貴族の絵画って、あんな雰囲気だった気がする。あと、ジャンの母がマルグリットにとある過去を明かす場面はキツかった。闘った先に何があるのかと。

第一幕と第二幕まではともかく、第三幕まで見ると、「この闘いってなんのためにあるんだっけ?」となる。決闘裁判はあくまでマルグリットの目線で見るわけだが、そもそもこの裁判自体がバカげている。しかし、当時はこれが正解だったのだろうと思う、問題は、2021年もさして変わっていないことである。

三者の見る世界のズレも面白い。特に男ふたりの勘違いっぷりは、ある面から見れば滑稽で愚かだし、角度を変えればとても虚しく切ない。自分に都合の良いようにしか周りを見ていない。冒頭の川辺の合戦や、結婚パーティーでの再会など「え、そこも認識ちがうの?」となる箇所多数。見落としもありそう。