映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「かそけきサンカヨウ」感想

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かそけきサンカヨウ、観た。お父さんの再婚に戸惑う娘の恋と成長…というありがちなテーマをこうもおいしく料理できるんだ!という驚き。味付けは最小限に、じりじりと心の距離を詰めていく人たちを丁寧に描く。カフェでのんびり過ごす昼下がりのような映画。今泉力哉作品にしては灰汁少なめだと思う。

なんとなく雰囲気的には「知らない、ふたり」に近いのかしら。今泉力哉作品というと、男と女がそれぞれ勝手に走り出して、躓いて、たまに合流しては結局並走で…という様を俯瞰で描き、少々無様に見せる意地悪さがあるのだが、原作があるためか、そこはマイルドである。ここは好みが分かれるか。

志田彩良演じる陽は、まわりの大人たちがだらしなくて、大人にならざるを得なかった子どもだ。まるで先走って花を咲かせてしまうサンカヨウのようだ。相手の顔色を窺いながらみんなが居心地の良い空間を作ってくれる「賢さ」がちょっぴり切ない。それ以外選択肢なかったんだからね。ある意味で悲劇だ。

友だちとのおしゃべりを抜け出し(このカフェを切り盛りするのは芹澤興人。今泉作品では毎回「マスター」で出てくる)、ひとりぽつんとキッチンに立って慣れた手つきで料理をつくる。一連の流れで陽がどんな子どもなのかわかる。この手さばきの良さが今泉演出の真骨頂であると、個人的には思う。

「誕生日会」との良い対比になっているのも注目したい。最低限の情報からコントラストを演出している。鈴鹿央士の青臭さもいい。陸もまた陽と似たような目をしている。相手の出方を伺う、オドオドした態度。こっちはこっちで可愛いんだけれども。友人役の中井友望はいい存在感。声が特徴的だ。

菊池亜希子と西田尚美。本作にはふたりのお母さんが出てくるわけだが、これがどちらもすばらしい。西田尚美は「青葉家のテーブル」でも輝いていた。まっすぐは歩けないけど力強く前に進む、子どもにたくさん愛を注ぐ、やさしいお母さんを演じさせたら右に出る者はいないかもしれない。