「見上げた空に何が見える?」感想
見上げた空に何が見える?、観た。東京フィルメックスにて。街中で一目惚れをした男女が、あくる朝、見た目が変わる呪いにかかってしまい…。ジョージア・クタイシの何気ない景色が、僕たちの日常を祝福してくれる。途中から話が脱線しまくるが、最後に待っている「奇跡」は至福としか言いようがない。
しかし、150分は長いかな〜と思う。きのう夜更かししたせいでコンディションも悪く、それなりに睡魔との戦いでもあった。最初に書いたが、途中からリザとギオルギの恋模様よりも、ワールドカップに熱狂するクタイシ市民の浮かれっぷりにフォーカスが当たるのである。そこもまあ面白いのだけど。
しかし、一見どうでもいい市民のサッカー熱を追ううちに、クタイシの街そのものへの解像度が上がってくる。最初は何も思わなかった街並みが、どんどん美しく、輝いて見えてくる。「白い橋」都「赤い橋」。地元民が集まるダイナーのテレビ。それを通りの車から眺める男たち。みんなに愛情が芽生える。
そういう奇跡のような変化を体験するには、たしかに150分の尺は必要だったのかもしれない。ほんとうにこの時間のあいだにクタイシの見え方が変わるんです。自然光の捉え方も優しい。シネフィルではないのでリファレンスが乏しいのだが、個人的に「ベルリン・天使の詩」っぽいなあという印象を受けた。
あと、ファーストショット(リザとギオルギの出会いを「足」から映す場面)で、一度飛び去った小鳥がまた戻ってきて、ちょうどよいタイミングでフレームインしてくれる。まさか小鳥に演技指導したとは思えないのでたまたまだろうが、よくぞ撮った!と思った。ここからもう奇跡は始まっているわけです。
あとこれはうまく言語化できないが、この映画はリザとギオルギが恋に落ちる瞬間の表情を取らない。バタバタと行ったり来たりする足のみを映す。だからふたりがなぜ惹かれ合うのかって詳しくは説明されない(たぶん一目惚れだろう)んだけど、そこを飛ばしても納得はできるんですよね。理屈じゃない。
だからこそ、リザとギオルギが笑いあう瞬間であったり、奇跡のようなツーショットに、とてつもない力を感じるんじゃないか、と思う。店主の奥さんのケーキを取りに行くシークエンスは全カットすばらしかった。僕たちはこういうよろこびのために生きているんだと、再確認できる映画だった。