映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「子供はわかってあげない」感想

f:id:StarSpangledMan:20211127205932j:image

子供はわかってあげない、観た。大傑作。ムリして泳ごうとすると溺れちゃう。まずは「死体ごっこ」で波に身を任せよう。終始そんな独特のフロウで進む美波の気ままな夏休み。しかし、上白石萌歌のコミカル=漫画的な所作と、豊川悦司の威圧的なオーラによって、妙な背徳感とスリルをはらんだ冒険譚に。

もうこの映画の上白石萌歌には惚れ惚れするしかない。リビングでお気に入りのアニメを見て、まわりの家族なんて意に介さずぼろぼろと泣く。その無防備な姿から伝わる素直さと、胸に覚えるザワつきは、最後まで不穏な予感として残り続ける。だからただ「緩い」だけの映画で終わらないのだ。

ウソをついて実の父に会いに行く後ろめたさ。豊川悦司のゴツゴツとした肉体を見て、「本当にここにきてよかったのか?」と観客は不安を覚える。美波のあまりに無警戒な行動は、最後まで観客の心を揺さぶり続けるのだ。もじくんに対する冗談なのか本気なのか計りかねる言動も見逃せない。

俺はわりと最後の方まで藁谷を信用してなかったんですね。もじくんに酒飲ませて潰して、結局娘とふたりで夜を過ごすくだりも、もしかしたら計算してるのでは?という疑念が拭えず。布団用意したり、お昼ご飯食べながら夕飯の話したり、さらっと娘を帰りづらくするあたり、結構したたかですよね。

表向き善人を装って洗脳してしまう新興宗教にかつていたこと、というフィルターがそう感じさせるのかもしれないが。娘が帰ったあと、藁谷が玄関からリビングに入って、アニメのDVDを再生するまで、絶妙に不穏な時間が流れる。わざわざそれを引きの絵で、しかもアニメ番組の音だけでそれ「見せる」。

深読みしすぎかもしれないけど、一瞬「もしかしてヤバいことが起きるのか?」と思った笑 ところで、上白石萌歌がちゃんと日焼けしているのがいい。小麦色の肌はひと夏の勲章だ。いざおうちに帰ったら、楽しみにしてアニメをすぐには見ないのもすごくわかる。気分じゃないんですよね。

これって旅行から帰ってきたときのあるあるで。非日常から戻ると、いつもの楽しみが少々色褪せて見えてくるから。しかし、美波の理由はこれだけじゃない。もじくんがいないのが物足りないのだ。屋上でのクライマックスは、もう、震えしかない。「あのね、もじくんが好き」の愚直なまでの素直さよ。

まじめに集中すると笑っちゃう美波の「照れ」を受け止めて、こうすればいいんじゃない?と視界を塞いであげるもじくん。気持ちを伝えた美波の顔から手を離すと、その瞳からは大粒の涙。なんて美しいやりとりなんだろうと思った。夏休みの最後のピースがバチッとハマる瞬間、ひとつの絵が完成する。