映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「マクベス」感想

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マクベス、観た。大傑作!シェイクスピアの戯曲をジョエル・コーエンが映画化。小心者のマクベスが暴君として破滅していく様を描く。ドイツ表現主義を踏襲したモダニズム的映像美、野心と恐怖で揺れ動くデンゼル・ワシントンの演技!クラシカルでありスタイリッシュ。洗練されたドラマに酔いしれる!

シェイクスピアの舞台にはきちんと触れたことないけど。冒頭の「魔女」から心惹かれる。非現実的な存在感を放ちながら、しかし、そこにたしかに「居る」と信じさせるに足るリアリティがある。映像は「カリガリ博士」や「メトロポリス」、それから「第七の封印」などドイツ表現主義の流れを意識させる。

ワンショット毎の強度がすさまじい。セリフまわしはいかにも古典といった重さで、大仰かつ回りくどいのだが、デンゼル・ワシントンフランシス・マクドーマンドシェイクスピアのことばを軽やかに乗りこなし、緻密な政治劇としてしっかり現代の作品にチューンアップしている。

前半の山場はマクベスがダンカン王を暗殺する場面。そして、そのあとの大立ち回りである。酔っ払った従者に罪をなすりつけ、領主たちを扇動する。優柔不断で恐怖におびえていたマクベスが破滅の一歩を踏み出す。明らかに暴君スイッチ入っちゃったマクベスの目がメチャクチャ怖い。そりゃ失神するわ。

あとマクベスが二度目の魔女の予言を受け、最後の戦いに挑むクライマックス。すべてを失って孤独になった男の悪あがき。もはや後がないからこそギットギトのエネルギーが身体中から溢れる。素手で剣士と戦うシーンは完全に妖怪である。ここは劇伴もイカしてた。

舞台装置は極力シンプルに。それをモノクロ映像に落とし込み、情報量は最小限。おかげで人間ドラマのシンプルな旨味が際立つ。それでいて観終わった後の満足感、劇場から出た瞬間の疲労はなかなかで笑 ただ、家のテレビで観てたのしいタイプの映画というと…ちょっと疑問である。いい作品ではあるが。