映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ロスト・ドーター」感想

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ロスト・ドーター、観た。バカンス先で「母親」をまっとうできなかったトラウマが蘇る中年女性の物語。娘が独り立ちしてなお罪悪感に苛まれるなんてキツすぎる。ビーチで寛いでも、バーで飲んでも、映画館に寄っても周りはうるさいし他人に絡まれるしで心休まらず。子育てってこんな感じなのかなあ。

レダはバカンスに来たはずなのに、治安悪めの男に絡まれたり、家族連れが大騒ぎしたり、なんでこんなにイヤな目にばかり…と、散々な思いをする。ここら辺の展開に脈略がなく不条理だが、一方でレダの恐怖心がパラノイア的にも映る。このどんよりしたら苦しみこそレダのトラウマ。子育ての呪いだ。

のんびりしたいのにのんびりできない。何をするにも誰かに目的を邪魔される。フラッシュバックで蘇る子育ての記憶は非常にストレスフルだが、現代パートのバカンスの空気感と直結している。抜け出したいけど抜け出せない。しあわせなはずの旅は、思いもよらぬ悪夢へと転落していく。

ヴェネツィア国際映画祭脚本賞も納得だ。「ビーチに遊びに来た女性が不条理な目に遭い…」と字面だけ追うと完全にホラー映画のフォーマットである。ここに主観的な(だが、なにがフックとなってレダの記憶と直結したのかは観ればわかる)フラッシュバックが加わり、現代パートの寓意性が際立つのだ。

オリヴィア・コールマンの若い頃をジェシー・バックリーが演じる。このキャスティングだけでだいぶ儲かってる。何かが手に入らなかったときの表情なんてそっくりだ。オリヴィア・コールマンの張りのない肌と丸まった背中が、人生も折り返し地点に差し掛かったレダの悲哀を強調する。

しかし、子育てや子を忌々しいものと描かない絶妙なバランスの上に成り立った映画だ。あくまでそれはレダにとっての「呪い」であり、「母性」の解体が主題である。あまり観ていて気持ちのいい映画ではないし、好きでもないのだが、とてもよく出来た映画であることはたしか。ネトフリ配信は勿体ない。