映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「春原さんのうた」感想

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春原さんのうた、観た。窓が開け放たれている。風が吹き、カーテンが揺れる。窓は誰かが来るのを待っている。しっかりご飯を食べて、コーヒーを淹れ、疲れたらお布団で寝る。日常は退屈で無機質だ。でも、その積み重ねは「詩」になり得るし、後から「意味」は現れる。特殊な時間の流れる映画だ。

コロナ禍で撮影された「春原さんのうた」は、当然のようにマスクを着けた人びとが登場する。だからこそ、「いつ」「誰の前で」マスクを外すのか?が非常に生々しい意味を帯びてくる。沙知は人を招くとき家の扉を開けている。換気のため?いや、違う。外の世界から何かを呼び込もうとしている。

「食べる」「寝る」「体を動かす」「いつもと違う景色を見る」…といった日常とそこからはみ出た小さな非日常が、沙知の心を癒していく。たとえば、日高さんを訪れた女性と出会う場面。ひとしきり泣いたあとに布団で眠る。なにげない場面だが、「寝る」ことに大きな意味が与えられている。

原付でふたり乗りする沙知とおじさんを背中から撮る。信号待ちのタイミングでぐっとカメラが寄る。このあとのセリフもすばらしい。濡れた雨合羽を払ったり、手を洗ったあと蛇口に水をかけたり、無言で漬物をつまんだり、、食べたいケーキを手元に置いたり、さりげない所作が一つひとつ目に焼きつく。