映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「MEMORIA/メモリア」感想

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MEMORIA メモリア、観た。一週間寝かせても感想が言語化できない体験。目や耳で感じてきた世界がすべてだと思うな!と言われているようだ。そこで起こることは極めて不安定で落ち着かない気持ちにさせるのに、ゆったりとしな長回しの映像と自然音に癒されてしまう。考えても答えはないが考えたくなる。

ウトウトすると爆発音で叩き起こされる親切設計。次いつ来るんだ?とだんだん不安になってくる。ジェシカは自分の身に降りかかることを誰にも伝えられず、もどかしい思いをする訳だが、まったく同じ体験を観客はこの映画そのもので得るわけである。ジェシカと同じく我々は「メモリア」に接続する。

つねに何かに怯えながら生きる。答えを探すが見つからない。それでも得たいともがき続ける。ジェシカはやがてその土地に根付く記憶=メモリアと繋がっていくわけだが、自分の人生や悩みもまた、かつてこの世界で繰り返されてきたちっぽけなさざなみに過ぎないのだと相対化された気持ちになる。

地球規模の記憶と接続して、自分の存在が相対化されるのは、果たして幸せなことなのか。虚無感だけが残らないか。鱗取りのエルナンは死を「止まっていただけだ」と云う。アピチャッポンの映画では生と死、過去と現在と未来が、至るところに、まるで河原の石ころのように無造作に転がっている。

生や死には殊更大きな意味は与えられない。そこに悩む必要なんてない、となる。「ブンミおじさんの森」の衝撃的なラストを思い出せばわかるように、時間はあらゆるベクトルに飛び交っていて、突然世界が分岐することだってあり得る。エルナンが蒸発して、かと思えば違うエルナンが出てくるのはなぜか。

毎日の悩みや苦しみが、雨で洗い流されてそのまま土に染み込んでいくような心地よさが「メモリア」にはある。悠久の歴史の中でただそこで何が起こったかという記憶は土地が覚えてくれる。あのクライマックスのCGも意味不明だが「なるほどね」と、とりあえずその飛躍に納得する。それでいい気がする。