「わが青春つきるとも 伊藤千代子の生涯」感想
わが青春つきるとも 伊藤千代子の生涯、観た。治安維持法のもとで戦った実在の活動家を描く。さすがに思想が前景化しすぎ。それは美談にして良いのか?という場面も感傷的に描いている。題材は映画向きだし面白いと思ったんですけどね。オブラートに包んだ言い方をすればとても「教育的」な映画です。
衆議院選挙の費用が足りないからと、千代子の学費を使う場面がある。言い出しっぺの夫もさすがに一度は躊躇うのだが、結局、千代子の熱意におされてその大切なお金は活動に使われる。しかし、そのあと大したフォローもない。刑務所で「赤旗の歌」をみんなで熱唱する場面も置いてけぼりをくらった。
セリフまわしの稚拙さが作品の程度を著しく下げていると感じる。「ひどい!」とか「許せない!」なんて本当にそう思ってるときに叫ぶ言葉なのだろうか?石丸幹二は紋切り型の特高をかろうじてインパクトあるキャラにしていると思った。あと、終盤の千代子が吐く「あの花は何?」はよかったな。
結局、千代子がなぜ戦うのか?が見えにくい。そこは自明のものとして扱われているが、映画なんだしもっと当時の社会状況や庶民の生活を冒頭に描いてほしかった。工場の子どもたちが「つらいんです!」と口で説明したり、いくら活動家が高潔なお題目を叫ぼうとも、あまり心には響いてこなかった。
要するに、観客が千代子を愛し、尊敬するような作りになっていたかというと、そうではなかった、ということだ。あくまで「歴史的事実」の説明にしかなっていない。見応えのある映画とは言えなかった。