映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ」感想

f:id:StarSpangledMan:20220503213322j:image

アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ、観た。面白かった。コロナ禍のルーマニアを舞台に、セックステープが流出して保護者会で吊し上げられる教師を描く。同国の歴史修正主義や性にまつわる欺瞞を下品に混ぜっ返すようでいて、わりと秩序だった映画だ。でも、R15にしたのは大失敗だと思う。

セックステープそのものを描くかどうかは横に置くにしても、保護者会でそのビデオが流されるバカバカしさであったり、あの突飛なクライマックスであったりを、監督監修の元とは言え、ああやって手を加えてしまうと、ベルリンで金熊を獲ったのとは別作品として評価せざるを得ないだろうと思う。

第一章では、もはや後ろに引けなくなった主人公が保護者会の会場である学校へと向かう様が延々と映される。コロナ禍のブカレストの記録として面白い。下品な表現のビルボード、「美しい」裸体の彫像、シャッターの閉まった街並みに、看板に名を連ねる世界的チェーン店のロゴたち。

何か言いたげだがここでは敢えて何も主張しない。ダラダラとパンしていくカメラワークは、街中を歩く主人公そのものより、ブカレストの街並みに関心がありそうだ。スーパーのレジで喧嘩する客や、怪しげなコロナ対策グッズを薬局で買う老人など、この数年でさらに歪んだ景色がひたすら映される。

第二章は、これ単独だとそんなに面白くない。明らかに第三章への種まきと位置付けられており、正直、そのための準備だと思いながら観ていた。ここもR15指定のため、肝心なところが隠されており、絵面のショッキングさが観客に与える印象や感触は大きく違ってしまうであろうことは想像に難くない。

本番の第三章。ルーマニアの恥部を暴く。ユダヤやロマへの差別、チャウシェスクの独裁政治、歴史修正主義的な反動。主人公への容赦ない罵声にはポルノへの反射的な嫌悪やミソジニーが滲み出る。「ヒトラーユダヤ人だ!」とか「先生はアバズレだ」とか先生憎さにさらにやばいことを言い出す保護者。

本質とは関係ない部分で主人公を罵倒したり、痛いところを突かれると話を逸らしたり、とても大人同士とは思えない会話が続く。この映画では一切「子ども」の姿が描かれないのも肝だ。どこかで見覚えがある景色。ヤフコメ民の「議論」のようだ。自己正当化の欲求を抑えきれず歴史を否定する。

最後の最後の「悪ふざけ」は、監督の茶目っ気だと思ったが、人によって評価は分かれるかもしれない。しかし、ここもR15版修正の弊害が…。顔が映らなきゃ意味がないと思うのだが。そんなにR18指定だと興行に影響するのだろうか。イメージフォーラムなんてそんなの気にしないおっさんしか来ないのでは。