映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「パリ13区」感想

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パリ13区、観た。面白かった。男と女がくっついたり、離れたり。奔放なわりに後腐れなしとはいかず、いちどその温もりを知ってしまうと、一人寝る夜は寂しいし、終わりなき空虚と向き合う羽目になる。エミリーがめんどくさ過ぎるのにヒロインとして魅力的なのは、寅さんの愛おしさと通ずるものがある。

カミーユからひさびさに電話が来て、「バーカ!クソ!」なんて暴言吐いておきながら、いざ向こうから切られると「勝手に切るな」と電話を掛け直す。カミーユもよくこんな女に連絡するよなと思うと同時に、放っておけない意地らしさに納得もしてしまうのである。終始、そんな調子で進む映画だ。

エミリーが仕事の休憩時間にマッチングアプリの男と一発カマして、晴れ晴れとした様子でバレエを舞いながら職場に戻る。メチャクチャ面白い。ノラとアンバー・スウィートの物語も好きだ。「本名でポルノサイトに登録するなんてバカね」と。お互いに身を差し出す。やっとそこから始まる関係がある。

ディーパンの闘い」や「レ・ミゼラブル」、「GAGARINE ガガーリン」に並ぶ団地映画と言える。これらの作品が移民問題や格差を描く舞台として団地を選んでいたことに比べると、切り口はいくぶんかマイルドで、あくまで人と人の関係がめまぐるしく入れ替われる無機質な空間として描かれている。

くっついたり離れたりの末に訪れるふたつの結末。どちらも美しい。結局、どんなに苦しくても、こういう瞬間があればね、と思ってしまう。オープンな性的関係を描きながらもあまりいやらしさはなく、セックス第一で動いてる彼らを理解するには十分だった。カミーユを軸に対照的なのも面白い。

カミーユがエミリーと交わるときと、ノラと交わるときとで、雰囲気ちがうんですよね。エミリーは向こうからズカズカとプライベートな領域に踏み込んでくる一方、ノラとの夜は探り探り。エミリーの団地の「扉」を開け閉めする関係と、カミーユの不動産屋のオープンな関係(筆談!)。間取りの違い。