映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ニューオーダー」感想

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ニューオーダー、観た。幸せなはずの結婚パーティーになだれ込む暴徒。経済格差は限界を迎え、社会崩壊の時が訪れていた…。この題材を「ディストピアスリラー」としてエンタメ化することに抵抗感を覚えつつ、身も蓋もない「新しい秩序」の着地点には、不快や絶望をこえて、もはや虚無感しか残らない。

メキシコってマフィアが堂々と公権力を握れてしまう国というイメージで。その底なしの腐敗っぷりは側から見ても絶望的だが、この映画で描かれる危機も、きっと現実と地続きなのだろうと思う。暴力的な革命とその事後処理という意味では普遍的な歴史のお話だが、もっとメキシコの事情と絡めて考えたい。

多くの人が語るようにポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」を連想。血に染まる晴天のパーティーは特に。2020年公開作品なのでほぼ同時期の制作。単なる偶然ではないだろう。コロナ禍による社会不安で貧困層はより苦しくなり、富裕層は焼け太りするこの世界で、より切実さは増している。

ラジ・リの「レ・ミゼラブル」が暴動を起こす側の視点をうまく取り入れていたのに比べると、切り口がちがうから当然ではあるけれど、貧困層の怒りは少々紋切り型に見えてしまう。しかし、この映画は、社会の崩壊に対してさらにもう一段シニカルな見方を示しているように思う。

つまり「レ・ミゼラブル」や「ディーパンの闘い」で描かれるような秩序の崩壊はもはや前提となっている。最初から秩序なんて壊れていて、表面的に保たれているように見えるだけだ。デモ隊が街を破壊して富裕層を虐殺したとしても、すでにぶっ壊れた社会がその後どうなるかというと…。

最後の場面の位置関係。「見る」「見られる」の対比に、ああ、そこに落ち着いてしまうのかという空虚さだけが残る。で、やっぱりこういうオチを選ぶのは、制作国がメキシコだからなのではないかな?と。フランスやドイツだったらちがう着地点で作るのでは?と思ってしまう。